対談

JFEシステムズ株式会社
代表取締役社長
大木 哲夫氏

パーパスを経営の軸に 社員の求心力を高め 新たな価値を創造する

JFEシステムズ株式会社
代表取締役社長
大木 哲夫氏

JFEグループの企業をはじめとするお客様に多様なITソリューションを提供するJFEシステムズは、設立40周年を機に企業理念を刷新しました。この理念に基づき、同社はどのような企業運営を志向しているのか。同社代表取締役社長の大木哲夫氏に、当社代表取締役社長の小宮がお話を伺いました。

対談者様プロフィール

大木 哲夫

1984年、川崎製鉄(現JFEスチール)入社。JFEホールディングス 常務執行役員、JFEスチール 専務執行役員などを歴任。2020年にJFEシステムズ 代表取締役執行役員副社長に就任した後、2021年6月より現職。

お客様のスマートな働き方を支援して
社内の働き方もスマートでハッピーに


小宮
御社は、2023年5月に新たな企業理念を発表されました。当社も微力ながらご支援させていただきましたが、その背景やねらいについてお聞かせください。
大木
背景には、2023年9月に迎える設立40周年があります。当社の母体は当時の川崎製鉄、現在のJFEスチールのシステム部門で、1983年の設立以来、JFEグループおよびグループ外のお客様にITサービスを提供してきました。こうした事業展開を踏まえ、当社の存在意義をよりクリアにして、社員はもちろん、お客様やビジネスパートナー様、さらには当社への入社を希望される方々へ、時代を反映したわかりやすいメッセージを届けたいと考えたのです。そこで今回、企業理念を「パーパス、バリュー、行動指針」と体系的に整理して、社員が業務に取り組む際の拠り所にするとともに、当社が何を信じ、どのように社会へ貢献していくのかを明確にしました。また、パーパスをシンプルに表現したフレーズとして、「スマートフル(Smart + Heartful)IT」というブランドコンセプトも制定しました。
小宮
いわゆるパーパス経営を推進していくということと思いますが、「スマートフルIT」は、御社の思いがよく伝わってきて、本当にすばらしいと感じました。パーパスの策定にあたっては、社内でかなり議論されたのでしょうね。
大木
議論というよりも、お客様、ビジネスパートナー様、当社経営層・社員から集めた言葉を集約して、共通項を見つけ出してまとめました。パーパス策定プロジェクト「未来ソウゾウ会議」には、次世代を担う14名の社員に参画してもらい、自由に意見を出してもらいました。
小宮
名称やメンバーから、社員の方々の思いをとても尊重されたことがわかりますね。
大木
社員が主導して言語化した方が、社内外に向けて力強いメッセージになるとの考えからです。そして誕生したパーパスが、「はたらくをスマートに。はたらく人にスマイルを。」です。この言葉にはお客様のスマートな働き方の実現をサポートしつつ、同時に自分たちもスマートに働きハッピーになりたい、という社員の思いが込められています。

経営層が自らのパーパスを語り
社員の具体的な行動につなげていく


小宮
当社には「創造:未来を切り拓く創造の心と力を持とう」といった、創造、責任、連帯の大切さを伝える社訓があるのですが、以前、この社訓を時代に合わせて変更すべきではないかと検討したことがありました。しかし、社訓の言葉一つひとつには時代の変化にかかわらず守るべき大切なメッセージが込められていると判断して、最終的に変更はしませんでした。今期は「Make Hybrid Innovations」をキーワードとする中期経営計画「BBS 2023」の最終年度にあたります。そこで、さらにInnovationを起こすため、創造、責任、連帯それぞれを表すアイコンを作成するなど、改めて社訓の浸透を図りました。御社にとっても、新たな企業理念の社内浸透や社外発信は重要なテーマだと思いますが、その観点から検討されていることはありますか。
大木
社外に対しては、社員の名刺やWebサイトなど、各種メディアを通じたメッセージの発信を計画しています。社内に対しては、いかに社員一人ひとりの理解を促し、共感してもらえるかが大切になると考えています。そこで進めているのが、私を含めた役員クラスが率先して自身のパーパスを語ることです。パーパスに基づいて、「私はこれに取り組むのだ」と、どのようにパーパスを具体化していくかを周囲に伝える。このことによって、事業部やビジネスユニット、職場単位でパーパスを考えてもらい、それらを共有することで、パーパスに沿った行動が社員一人ひとりに浸透していく――私がめざすのはそんな形です。
小宮
共感を重視されているわけですね。
大木
おっしゃるとおりです。その意味で、パーパスを社員の思いから導き出したのは、意義があったと思います。

社員と会社それぞれの立場から
あるべき働き方の形を追求


小宮
パーパスを検討されていた期間はコロナが拡大して、ワークスタイルの変化もあったと思います。社員の働き方については、どのような点を重視されていますか。
大木
テレワークの実績が上がったことで、従来以上に社員と会社それぞれの事情を考慮しながら最適解を見出していくことが必要になったと考えています。現状は、出社勤務を基本に5割を上限にテレワークも可能にしており、個人的事情でテレワークの比率を増やしたい場合は個別に上司の了解を得るというルールを定めています。ただ、経済環境の変化などを考えると、長期的にはテレワーク比率の変更やサテライトオフィスの活用なども柔軟に検討する必要があると思っています。
小宮
当社でもニューノーマルの働き方について社員にヒアリングしたところ、出社勤務とテレワークの比率は5対5が最もバランスが取れているという結果でした。
大木
大切なことは、出社の意義を全員が理解することだと思います。出社しても、黙ってPCに向かっているだけでは意味がありません。ディスカッションの機会を積極的に設けるなど、出社した時間を有意義に活用する取り組みを進めています。
小宮
コロナが拡大してからはWeb開催が中心だった社内行事も、最近はリアルが多くなってきました。
大木
そうですね。リアルで会う価値を再確認したのが、この3年間だったと思います。

適財適所を実現する
人財マネジメントシステムを構築


小宮
パーパス策定の背景の一つに人財の確保も挙げられていましたが、人財の採用や育成の取り組みについてお聞かせください。
大木
大卒新入社員は、前年より多くの人財を採用することができました。これは、採用に関わる社員の数を増やしたことが要因です。より多くの学生さんと直接会い、丁寧にサポートできたことが好結果につながりました。一方、キャリア採用は難しい状況です。そこで、従来は即戦力を対象としていましたが、今後は人物本位で入社後の育成を前提にした採用も検討しています。
小宮
当社も同様の状況で、入社後の育成を強化しています。また、日本の構造的な課題として、人財不足はこれからもっと顕著になっていきます。DXはその解決策の一つですが、御社の取り組みはいかがでしょうか。
大木
人財関連のDXは、今後1年のうちに成果を上げることを目標に、タレントマネジメントシステムの整備を進めています。社員一人ひとりの能力や経験、スキルなどの情報を一元的に把握できる仕組みを整備することで、すべての社員に適財適所で活躍できる環境を提供するとともに、人財マネジメントの高度化をめざしています。さらに、将来当社の経営を担う人財を計画的に育成していくために、新たな人事システムの構築にも取り組んでいます。

強みを活かしたITソリューションで
サステナブルな社会の実現に貢献


小宮
当社は「企業の総合バックオフィスサポーターになる」というスローガンのもと、バックオフィス業務を中心にお客様のDXを支援し、社会に貢献していくことを大きな目標に掲げています。社会課題解決や社会貢献の面で、御社ではどのような対応を進められているのでしょうか。
大木
ご承知のとおり、当社の親会社は鉄鋼業でCO2を排出していることから、カーボンニュートラルにITの面からどう対応するか、これが当社の重要なテーマです。また、私が以前、JFEホールディングスでIRに携わっていた時に実感したのが、海外の機関投資家は、気候変動問題と同様に水への関心も高いということです。鉄鋼業は、生産時に水も多く使用します。CO2排出量や水使用量の削減は、幅広い産業に関わる世界的な社会課題であり、親会社に対するソリューションを広く他の産業にも提供していくことが、サステナブルな社会の実現にもつながるものと信じて取り組みを強化しています。

今後の成長に向けてパーパス経営とともに
ダイバーシティ&インクルージョンも推進


小宮
このほか、今後の成長に向けて取り組まれていることについても、お聞かせいただけますでしょうか。
大木
まずは、一般顧客向け事業を伸ばして、JFEグループ向け事業との2本柱で、着実に成長する体制を確立することです。また、長期的な人財戦略として検討しているのが、外国籍人財の積極採用です。労働意欲の高い優秀な人財を積極的に採用し、ともにハイレベルな仕事に取り組んでもらいたいと考えています。さらに、その活躍の場を、日本にとどまらず海外に広げることも視野に入れながら、成長力をより強固にしていきたいですね。
小宮
ビジネスのグローバル化ですね。
大木
もう一つ、すべての社員が個性を活かして仕事に取り組み、その成果によって希望するポジションに就いて、高い満足感を得られる環境の整備も進めています。その具体策の一つとして捉えているのが、女性社員の活躍支援です。現在7%強の女性管理職比率を2030年までに12%まで高めて、女性の意見を会社の経営に積極的に反映していきたいと考えています。
小宮
今まさに注目されているダイバーシティ&インクルージョンの推進ですね。私も人を尊重した公正で平等な評価は、経営者が果たすべき重要な責任だと認識しています。そのための仕組みづくりも、経営者にとって重要ですね。
大木
ここ数年で、こうした面に対する日本社会の意識は大きく変化した実感があります。これは、とてもいい傾向で、変化が進むことで環境が整い、めざす企業像が実現できると確信しています。
小宮
本日はパーパス経営を中心に、さまざまなお話を伺うことができました。貴重な時間をいただき、ありがとうございました。