対談
株式会社乃村工藝社
取締役 常務執行役員 管理統括本部長
奥野 福三氏
社員のセンスで 期待を超える空間を創造し お客様の信頼につなげる
日本を代表する空間プロデュース企業である乃村工藝社。同社取締役の奥野福三氏をゲストに迎え、人財やDX、品質などについて、当社代表取締役社長の小宮が意見を交わしました。
対談者様プロフィール
奥野 福三氏
1982年入社。執行役員、取締役を経て、2012年にグループ会社の代表取締役社長に就任。その後、常務執行役員 第四事業本部長、グループ事業本部長、事業統括本部 クリエイティブ本部長を歴任。2021年より現職。グループ会社4社の取締役も兼務。
多様な働き方と価値観を活かして
創造力を発揮できるオフィスづくりを推進
- 小宮:
- 昨年は、当社の本社移転に際して、エントランスなどのデザインを手がけていただき、ありがとうございました。
- 奥野:
- BBSらしさをいかに表現するか、全力で取り組ませていただきました。
- 小宮:
- ビジネスへの思いをすばらしい感性で表現していただき、とても嬉しく思っています。また、このオフィスデザインで世界的なデザイン賞の「Sky Design Awards※」を受賞されましたね。おめでとうございます。
- 奥野:
- ありがとうございます。
- 小宮:
- 魅力的なオフィスは、今いる社員の働きやすさはもちろん、優秀な人財の採用にも貢献してくれると期待しています。
- 奥野:
- 当社の仕事は、空間の創造・活性化を通じて、お客様の成長をサポートすることです。コロナ禍でテレワークが進み、オフィスは大きな転換期を迎えていると感じていますが、出社勤務がゼロになったわけではありません。こうした状況をしっかり捉え、「社員が会社に来て、仕事をしたくなる空間」の提案に注力しています。
- 小宮:
- そうした観点から自社のオフィスづくりには、どのように取り組まれているのでしょうか。
- 奥野:
- 当社では、週3日を上限とする在宅勤務をコロナ禍が収束しても続けていく予定です。こうした勤務形態をとりつつ、社員が出社した時には、当社の競争力の源泉である創造力を発揮できる環境づくりをめざして、さまざまなアイデアを盛り込んだ企画・デザインを行っています。例えば本社棟や離接する別棟に設けたオフィス空間は、実験過程にある「未完の自由空間」と位置付け、新たな発想が生まれるたびにデザインやレイアウトを変更して、社員が創造力を伸ばし、発揮できる空間としています。
- 小宮:
- 環境面から柔軟に人財の働き方を支援するのは、まさに御社ならではの取り組みですね。
教育研修が形骸化していないか
受けたい内容になっているかをつねに検証
- 小宮:
- 人財に関する重要な観点として、育成もあります。育成についてのお考えを伺えますでしょうか。
- 奥野:
- 育成は、とても難しいテーマだと実感しています。とくに課題に感じているのが、事業と直結する創造力の育成です。教育研修が、形骸化した教科書どおりの内容にとどまることなく、創造力を伸ばすものになっているか、社員が受けたくなる内容になっているかをつねに検証しながらプログラムを検討しています。
- 小宮:
- その人財育成において注力されていることがあればお聞かせください。
- 奥野:
- とりわけ重視しているのは、「センス」です。もちろん「スキル」の習得も重要ですが、スキルで培った能力を次のステージへ伸ばすのは、センスだと考えています。そこで、どうすればセンスを磨けるか、伸ばせるかに重点を置いて育成計画を検討しています。
- 小宮:
- 当社の場合は、まだまだスキル重視の研修が中心です。
- 奥野:
- スキルとセンスは、いずれが重要と比較するものではないと思っています。ポイントは、その企業の事業特性と関わる部分が多く、空間創造を手がける当社はスキルに加えてセンスの育成を重視しています。
- 小宮:
- 研修に関して、コロナによって変化したことや課題になっていることはありますか。
- 奥野:
- 若手社員のOJTですね。オンラインでは、先輩社員と一緒に行動して、いいところを吸収するといったことは難しいため、若手社員と先輩社員が経験を共有できる、リアルな機会が今まで以上に重要と認識しています。
DXで社内を見える化して
他社を圧倒する競争優位性を確保
- 小宮:
- 少子化の影響で人財の確保が大きな課題の一つとなるなか、業務の効率化を実現するDXがますます注目されています。DXには、どのように取り組まれているのでしょうか。
- 奥野:
- 当社では、来年度から新たな中期経営計画が始まります。そこで最適なDX化が図れるよう、自社の「デジタルビジョン(仮称)」の策定を進めています。この取り組みでは、IT部門だけでなく、全社横断のIT協議会を組織して、DXの観点から「乃村工藝社はどうあるべきか」というストーリーづくりを進めています。
- 小宮:
- 当社は現在、御社の基幹システム刷新プロジェクトに参加しており、DXにも貢献したいと考えています。
- 奥野:
- 従来システムをご覧いただいておわかりだと思いますが、当社のITシステムは、その都度必要な機能を追加してきたため、とても複雑な仕組みになっています。そこで、業務の効率化を図るためには、一度棚卸ししてつくり直すことがベストだと判断しました。システムへの要件が多く、その整理も容易ではないと思いますが、今後の成長を見据えた最適なシステム構築のサポートをお願いしたいと考えています。
- 小宮:
- DXと創造力の関係については、どのように捉えていますでしょうか。
- 奥野:
- DXで社内を見える化して業務の効率化を図った先に見据えているのは、競争優位性の確保です。「ほかではできない空間が創造できる基盤づくりを、DXで効率よく推進する」。この方針に基づいて、ノムラのDXストーリーを構築していきたいと考えています。
お客様に評価されてきた品質重視の経営
「ブランデッド」の重要性を再認識する
- 小宮:
- ものづくりで必ず問題になるのが品質です。品質に対するお考えや取り組みをお聞かせください。
- 奥野:
- 当社は業界のリーダーとしてトップの業績を上げてきましたが、大切にしてきたのは量ではなく、まさに品質です。空間創造で問われる品質は、「お客様への提案力」と「施工を含めて最後までやり遂げる推進力」であり、当社が創業130周年を迎えることができたのは、この品質がお客様に評価されてきたからだと思います。長年にわたって評価いただけてきたこと、それは我々のブランディングではなくブランデッドと社内で話しています(最近、世間でも使われ始めている表現ですが)。
- 小宮:
- ブランディングはよく耳にしますが、ブランデッドとはどういったイメージなのでしょうか。
- 奥野:
- ブランディングは、今後を見据えてめざしていくもの。それに対して「ブランデッド」は、いただけた信頼というようなイメージです。お客様に評価され、信頼されてきた実績は当社の誇りで、忘れてはいけないものです。130年の歴史を支えてきた「ブランデッド」を全社員で再認識して、ビジネスフィールドを拡げて未来に活かしていこう、と社内で話し合っています。
独自の視点と圧倒的な創造力で
期待以上のものをつくり上げる
- 小宮:
- お客様から寄せられた評価で、印象に残っていることはありますか。
- 奥野:
- 「とても満足した」と評価していただいたお客様のコメントに共通しているのは、「乃村工藝社から最初に提案された時は、頭のなかがクエスチョンだらけだった」ということです。それが実際に完成すると、期待をはるかに超えるものができ上がり、依頼して良かったとお話しいただくことが多いと感じています。
- 小宮:
- 高い満足度を提供できている要因は、どこにあるとお考えですか。
- 奥野:
- お客様が気付かれていない特長や魅力を独自の視点で見つけ出して、最適なデザインで表現できたからだと思います。予定調和ではなく、他との差別化を図る創造力が発揮できているのだろうと。
- 小宮:
- コンサルティングも同様で、お客様の気付かれていない課題を、こちらから進んで見つけ出して解決策を提案すると、ご満足の声をいただくことができます。どのようなビジネスでも専門性を発揮して、お客様の期待を超える成果を上げることが求められていることだと感じますね。
- 奥野:
- おっしゃるとおりです。その意味で、何をするか、簡単にお客様が想像できる会社ではダメ。当社についていえば「何をするかわからないけれど、期待以上のすばらしい成果を見せてくれる不思議な会社」と、評価される企業でありたいと思っています。
経営として明確なメッセージを発信して
お客様に愛される企業であり続ける
- 小宮:
- 最後に、今後に向けて注力していくことがあればお聞かせください。
- 奥野:
- これからも経営の根幹は変わりません。引き続き、空間の創造・活性化で、歓びと感動を提供していきたいと考えています。そのために必要なのは、やはり「創造力の強化」です。コアコンピタンスである創造力の強化を怠れば、業界のリーディングカンパニーとしてのポジションはおろか、「ただ社員が多いだけの会社」になってしまい、次の成長は絶対に望めません。このことは、社内へもつねに発信しています。
- 小宮:
- 非常に強烈なメッセージですね。
- 奥野:
- クリエイターはもちろん、営業部門も管理部門も全員が創造力を強化して、身に付けた高いスキルと磨き上げたセンスを発揮することで、お客様から愛され続け、業界をリードしていこうと伝えています。
- 小宮:
- 意図が明確なので、社員の皆さんの意欲も高まっているのではないでしょうか。
- 奥野:
- そうですね。当社の人財マネジメントポリシーには「一流であり続ける」という言葉があります。一流というのは、代替が効かないこと。「あなたしかいない」「乃村工藝社でなければダメ」と言われる力です。そして、この力を生み出すのは「空間をつくるこの仕事が好き」という社員一人ひとりの思いです。仕事が大好きな一流の人財が集まり、お客様の期待をはるかに超える魅力的な空間をつくり出し、信頼され続ける会社をめざします。
- 小宮:
- ノムラ・アイデンティティの確立に向けて、とても具体的なお話を伺うことができました。当社も自社のアイデンティティについて考え、「BBSと一緒に仕事がしたい」と言われる実績づくりを社員全員で進めていきたいと思います。本日は、本当にありがとうございました。
カナダ、アジア・パシフィック、日本の3地域で、優れたデザインの発信や業界の活性化を図る活動を続けてきたメルシーマガジン社によって創設された賞。建築、インテリア、ビジュアルデザインの各カテゴリーから優秀作が選定されている。