激変する調達/購買環境を乗り越え、企業価値向上につながる調達/購買DXの進め方

日本では、2021年から物価が上がり始めており、さまざまな原材料が高騰しています。合わせて、日本政府の賃上げ要請を受けて、人件費アップによるモノ・サービスの値上げが日々行われています。また、サプライヤーの供給不足と相重なって、「モノが買えない時代」になってきています。このような背景もあり、調達/購買部門は単にコストダウンを行う役割から、将来にわたり安定した購買を行うと同時にグリーン調達やSDGsなどの社会的責任を意識した調達/購買活動を行うことが求められるようになってきました。そのため、調達/購買部門の業務内容は年々複雑化しており、仕事の進め方の変革が求められます。
本コラムでは3回に分けて、激変する調達/購買環境を乗り越えて、企業価値向上につながる調達/購買DXの進め方について紹介します。第1回は、調達/購買業務改革の勘所やコストダウンプロセスについて説明します。

1.自社を取り巻く環境の理解

企業はさまざまな機能・活動から成り立っており「調達/購買」も企業活動のなかの一つです。単にコスト削減のために「調達/購買」をターゲットにするのではなく、企業価値向上のための全社的な戦略のなかで「調達/購買」は何をすべきかを考えるべきです。
そのためにはまず、自社を取り巻く環境・ステークホルダーを理解することが重要です。

サプライヤー売手の交渉力、事業継続性
顧客買手の交渉力、自社製品の強み/弱み、将来の成長性
競合代替製品、新規参入の脅威

2.コストの分類とコスト管理

調達/購買の対象は、商品・原材料の調達・製造にかかる直接材と、間接材料や販管費に含まれる間接材に分類され、それぞれの管理目的に応じて管理を行うことになります。

  • 直接材

    原価要素ごとに差異分析を行い、コスト削減の余地はどこにあるのか、コスト削減の責任部署はどこかを明らかにし、コスト管理を行う

  • 間接材

    品目ごとの特性に応じて、リバースオークションや、品目・調達部門・取引先の集約化など、最適な方法によりコスト管理を行う

3.調達/購買コストダウンプロセス

一時的なコスト削減で終わらせるのではなく、業務改革や調達/購買システムの導入および運用の定着化を行うことでコスト削減効果を継続させ、より大きな成果を実現することができます
調達/購買システムを導入し、コストダウン効果を定着化させるためには、初めにコスト分析の実施と調達/購買業務改革の推進を行います。コスト削減および調達/購買業務改革を行うことにより標準化・効率化された状態でシステムを導入することになりますので、スムーズな導入と早期の運用の定着化が可能となります。

4.調達/購買コスト削減の主な手法

  1. 品目の要・不要の明確化と集約化
    • 調達/購買リスト上の品目の必要性を検討し、不要な品目の購入を廃止する
    • 調達/購買品目を集約化し、1品目当たりの購入量を増やして購入単価を低減する
    • 重複品目、同等品目、類似品目を廃止し、調達/購買品目を集約化する
    • 品目の「標準品」を検討し、過剰品質・サービスの調達/購買を抑制するための品質基準を制定する
  2. 取引先・調達/購買部門の集約化
    • 調達/購買先を集約化して、1取引先ごとの取引量を増やすことで購入単価を低減する
    • 調達/購買拠点を集約化し、同じ取引先との交渉は代表窓口で集中して行い、調達/購買業務を効率化する
  3. 取引先管理制度の構築
    • 取引先とのリレーションを強化し、継続的な改善活動により調達/購買コストの安定化を図る
    • ソーシング(価格の決定)プロセスの効率化により、調達/購買コストの安定化を図るとともに、調達/購買業務を定着化する
  4. 調達/購買ナレッジのデータベース化
    • 調達/購買システムの利用により、カタログ外や登録外取引先からの調達/購買を排除し、調達/購買コストの安定化を図るとともに、調達/購買業務の効率化を図る
    • 調達/購買品目や取引先情報のほか、過去の見積や交渉履歴、プロセスのガイドラインなどをデータベースに蓄積し、担当者間で共有する

まとめ

調達/購買業務は、企業活動のさまざまな活動の一つであり他の業務とも密接に連携しています。単体業務の改革を考えるのではなく、全社的な戦略のなかで調達/購買業務の改革を検討するべきです。
そして、将来にわたり改革を継続するためには、調達/購買ナレッジのデータベース化が重要となります。
過去の見積や交渉履歴をデータベースに蓄積することで、データに基づいた戦略策定や調達/購買交渉が可能となり、自社の競争力強化(企業価値の向上)につながります。