本当にそれでいいのか? ERP導入の進め方 選定編(1)

今回は、「ERP導入の進め方」における「選定」をテーマに紹介したいと思います。(1)スコープ (2)パッケージ選定・ベンダー選定 の順で2回にわたりコラムを掲載します。

(1)スコープ

最初に、ERP導入の適用範囲を決めるうえで、利用ユーザーおよびプロジェクトマネージャーの立場からよくある事象を紹介したいと思います。

【利用ユーザー】

  • そもそも自身の仕事に対する範囲で検討するためスコープに対する意識が低い。
  • 利用ユーザーは投資予算を知ることもなく、「あれも、これも」と要求することになり、スコープが拡大の方向に向かう。
  • システムの企画段階で、アンケートやヒアリングを行うと利用ユーザーの期待感が増大して、要求がすべて通るという思い込みからスコープが拡大の方向に向かう。

【プロジェクトマネージャー】

  • ユーザーの協力を得たいがために当初からスコープを絞り込むことはしないので、スコープは拡大の方向に向かう。
  • RFPを作成した段階では費用感がわからないため、予算に合うスコープを絞り込む基準がない。

以上のことから、利用ユーザー、プロジェクトマネージャー両者の立場ともにスコープが拡大してしまう傾向があります。

次に適切なスコープを設定するための方法について説明します。

【to beモデルからcan beモデルへの絞り込み】

  • RFP作成時点でのto beモデルから、費用面でスコープを絞り込むことが困難なため、RFPでは必要と思われる機能をいったん含め、ベンダーの提案価格を見てスコープを絞り込みcan beモデルにすることが望ましい。
    スコープ絞り込みは、細かな機能ではなく、以下のような大まかな機能で良い。
    • ERP対象機能であれば、原価管理(標準原価、実際原価、見積原価など)、輸出関連、三国間貿易、債権/債務管理
      (会計システムで行うか、ERP側で行うか、機能分担とその場合のIFなど)
    • ERP周辺であれば、スケジューラー、PLM、WMS、EDI、ワークフロー、BI
    • ERPとのIFであれば、ファームバンキング、レガシーシステム連携

【システム化目的との整合性】

  • 企業の経営方針や中期経営計画に基づき、システム化の目的を明確にし、目的を達成するための方策を立案する。
    方策には、(1)業務改革 (2)組織改革 (3)システム導入があり、どれか1つでは効果が薄く、三位一体の改革が必要。
    三位一体の改革を前提として、システム化のスコープを設定することが重要。
    業務改革や組織改革なしに、システム化のみのスコープとすると導入効果が薄い。
    (例えば、入力工数を少なくするために入力しやすい画面をアドオンするなど)
  • ユーザーの声に押されて「あれば便利」という優先度の低い機能をスコープに含めてしまうことがないよう、システム化目的を達成する機能の優先順位を明確にすることが望ましい。

各社のシステム化目的とスプープの関連(例示)

A社のシステム化目的と方策の例スコープの例示
PLM生産
計画
購買
管理
工程
管理
在庫
管理
受注
管理
出荷
管理
債権
管理
債務
管理
1.マーケットイン指向の実現
特殊品を短納期化する
サービス常備品の即納体制を確立する
2.在庫削減
即納品管理の運用を徹底する
週次生産計画による在庫削減と欠品防止
3.経営への意思決定支援
正しい原価把握と経営管理情報の提供
月次経営情報のタイムリーな提供
B社のシステム化目的と方策スコープの例示
PLM生産
計画
購買
管理
工程
管理
在庫
管理
受注
管理
出荷
管理
債権
管理
債務
管理
1.職能別業務システムの自律と協調
自主運営と協調を可能とする情報共有化基盤の提供
2.PULL生産方式の支援
内示発注/確定情報での引張り調達現場からの引張りによる部材供給
3.製造リ-ドタイムの短縮
JIT改革/作業改善の結果を日程計画・作業指示に反映できる仕組み
4.コンカレントエンジニアリングの支援
設計進捗状況に基づいた生産準備→生産計画→部材手配への連動

いかがでしたでしょうか?

次回は(2)パッケージ選定・ベンダー選定について説明いたします。