社会主義国の会計事情

今回は、社会主義国である中国とベトナムの会計事情の類似点・特徴を見ていきたいと思います。

1. 勘定科目

中国は大分類として4桁の一級科目で統一されており、明細分類として、二級科目、三級科目と階層化し、各々2桁のサブコードを付けて、各企業に応じた管理科目を追加定義することになります。

一方、ベトナムにおいては、Chart of accountとして、勘定科目が規定されており、同様にサブコードを付けて、各企業に応じた管理科目を設けることとなります。
このように国が規定している点は社会主義国らしい特徴です。クライアントと会話する際には、数字である勘定科目のコードを伝えれば、どの勘定科目のことを言っているのか共通認識できるのは便利なところです。
また、勘定科目が規定されている点では共通していますが、中国では月次で税務当局へ決算書を提出する必要があり、規定科目であることに加え、受理される書式が限定的であることから「用友」など、当局推奨の会計ソフトの利用が暗黙の了解となっています。

それに対し、ベトナムでは科目の規定はありますが、現地メジャー会計ソフトはあるものの、利用する会計ソフトが限定されているわけではありません。

2. 特徴的なインボイス制度

中国では、当局が増値税や営業税を漏れなく徴収するための証憑として「発票」を利用しています。
ただし、この発票は、領収書の一面と請求書の一面の両面があるため、曖昧さを有しています。増値税を認識するためには発票が必要となり、発行および受領した発票についても税務当局へ月次で提出を求められます。この発票に基づく増値税額と、税務当局へ提出した決算書上の増値税額の不一致は認められないため、本来は取引として計上できるにもかかわらず、「発票がないと取引が計上できない」と主張し、入金時の領収書の位置付けとしての発票に基づき伝票起票する現地担当者が非常に多いのが現状です。これが、「発票会計」と呼ばれる所以です。

しかしながら、これでは発生主義を提唱している中国会計基準とは矛盾してしまいます。とくに月次での費用変動が大きい製造業においては、原価計算結果に大きく影響します。
この「発票会計」については、機会があればコラムのテーマの一つとして取り上げたいと思います。
ベトナムはというと、中国のように漏れなく付加価値税を徴収したいといった税務当局の思惑はありませんが、発行要件にさまざまな規制があります。
そもそも日本では、顧客に請求したければ請求書を発行すれば、証憑として有効になります。

一方、ベトナムにおいては、自社が営む事業は投資ライセンスとして登録する必要があり、当ライセンスで許可されていない取引については売上が計上できないため、当然、インボイスの発行・記載が行えません。
例えば、販売した商品にかかる配送料を別途請求したい場合、運送業にかかるライセンスを取得していれば、インボイスの内訳として配送料を記載する、または、別インボイスとして請求することができますが、そのようなライセンスを未取得の企業が配送料金を請求する場合は、商品単価に含めた販売価格としてインボイスを発行する必要があります。

3. フロー仕訳による原価計算手続き

こちらは、両国のみに該当する手続きではないですが、特記すべき点として挙げておきたいと思います。
通常は、製造費用の発生はそのままに、原価計算結果に基づいた期末棚卸高により、期首棚卸高+製造費用との差額を求めるストック形式で売上原価とします。日本企業においては一般的な手続きですが、中国やベトナムでは、このような手続きは認められているものの、フロー形式で仕訳を計上し、売上原価を計上している企業がほとんどです。

実際の手順としては、発生した製造費用を仕掛勘定へ(仕掛投入していない材料の仕入については材料勘定へ)、完成相当額は仕掛勘定から製品勘定へ、販売相当額は製品勘定から売上原価勘定へと振り替えていきます。
勘定連絡図の観点から見ればわかりやすいと感じるかもしれませんが、製造費用を他勘定へ振り替えてしまうため、月次での各製造費用科目の発生費用がプラスマイナスゼロとなってしまいます。

これでは製造費用の予実管理をしようと思っても、振替により実績額がゼロとなってしまうと管理ができなくなってしまいます。現地では違和感はないようですが、日本本社から見たら違和感があります。
このような場合、発生科目から直接振替を行うのではなく、振替用の勘定科目を新設し、当該勘定科目で振り替えることで、発生費用の予実対比、月次推移が行えるような工夫が必要となります。

中国・ベトナムの特徴的な会計事情を簡単に説明しましたが、いずれかの国に拠点を持つ日本企業や、これから進出を考えている企業の経理担当者・内部監査担当者の方には、頭に入れておいていただきたいポイントとなります。