第3回 業務マニュアル「標準化」の意外な難しさ

このコラムの第1回、第2回を通しまして、BPOのはじまり、その取り掛かりの部分についてお話してまいりました。BPO導入のゴールイメージと課題抽出・解決の流れを意識して、改めて経理部の「なりたい姿」と現状の姿を思い浮かべていただいたなら、どちらも以前よりはっきりとした輪郭が見えているのではないでしょうか。
締めとなります今回では、お客様の元でBPO導入検討がさらに進捗し、ではどの業務をBPO対象としようか、という段階になった時に顕在化する課題についても、少しだけ踏み込んで行きたいと思います。

BPOの現場では、大前提としてBPO対象となる業務を「標準化」が可能か否かで判断します。「標準化」とは、業務プロセスが単純化され、社内外共通で認識できるルール下で運用されている状態を指します。平たく言ってしまうと、どこでも誰でも同じ処理ができ、同じ結果が出せるようになっている、ということです。そして企業内において、この「標準化」をオープン情報として管理するために作成されるものが、業務マニュアルです。その会社に所属し、その業務を担当する方々が作り込んだ社内知見の集積と言えるでしょう。

コンサルタントがBPO導入へと関わっていく時は、まずこの業務マニュアルを確認し、また担当者様へのヒアリングを行います。「どんなツールやシステムを使い、どのように作業をしていますか?」 「その工数は、現在関わっておられる方の人数は?」 「業務の締日は?」 「ピーク時ではどれくらい忙しくなりますか?」……といった聞き取りを通して、コンサルタントが何をしているかというと、実は、BPO運用の規模感を目算しつつ、業務を担当していない社外の人間の視点で業務プロセスを再構築しています。

業務用語や符丁、社内部署やお取引先様との微調整、過去年度からの事情、ある場合だけは別手順を経由する作業、だんだんと覚えて判別がつくようになる要確認のフラグ……等々の業務は、担当者様だからこそ何の滞りもなくこなせているのであって、いざ社外の人間に説明しようとすると、あちこちで注釈が必要になります。知見が十分な方が当たり前のように行っている作業の中には、実際、驚くほどの量の情報や技術の圧縮があるのです。

お客様と会話をしながら、コンサルタントはこの「当たり前」の中にあるものを顕在化させようとしています。確認させていただいた業務マニュアルや、これまでの経験で蓄積した業務プロセスのパターンの数々、BPOセンターというオフサイトでの運用環境と突き合わせて、埋もれて見えていない部分、つまりまだ「標準化」されていない部分を掘り起こして、課題として可視化・検討していこうとしているのです。

ある業務のご担当者様は、一定期間その業務に関与され、最もリアルに内容を把握しておられますが、それがゆえに業務をまったく知らない者の視点を持つことが難しくなります。(このため、現行の業務マニュアルにおいても、「当たり前」を踏まえた作業状況に最適化される例も多くなります)

一方でコンサルタントは、BPOセンターをお客様が運用されている時と同じだけ機能させるための「標準化」のラインを、経験則として有しています。つまりお客様は、コンサルタントの目を通すことでその業務をBPO対象とするための課題を即時に見出だすことができ、「標準化」の程度と範囲をコンサルタントとすり合わせることで、効率的かつ効果的に課題を解決できるようになるわけです。

BPOにおいて、経理領域はニューノーマルの流れの中で大きな進捗を遂げたと言われています。生活が変わり、働き方が変わり、経理という業務の有りようも変わることを余儀なくされている、という見方もできるかもしれません。
しかし、経理に携わってこられた方々は、ルーティンワークと世に呼ばれるものが、同じ状況で同じ業務を繰り返すことではなく、新しい状況へ適応するという課題を解決して、これまでと同じレベルで運用できるようにする「標準化」の連続であるということをすでに知っておられるでしょう。
BPOの現場でも、現状で認識できる限りの課題をクリアしても、まだ「なりたい姿」と現行の姿との間に乖離があることがあります。けれどそれは、刻々と変化する外的環境へ適応するための伸びしろです。お客様の事業が継続していく限り、経理業務の現況への創造的な働きかけと、その結果の止揚は終わることがないからです。BPO導入もまた、こういった経理の継続性の内にあると考えてもよいのではないでしょうか。

このニューノーマルの先にある日々で、貴社はどんな経理部になっていたいですか?
お客様の「なりたい姿」のお話を、未来を変えるために対処すべき今のひと山のお話を、ぜひ当社コンサルタントへお聞かせください。当たり前を切り分けて課題を見つけ出し、ひとつひとつを解決していくために、きっとお役に立てるはずです。