第2回 ペーパーレス化というひと山を

前回コラムでは、BPOの導入検討を始める際には最初にどんな経理部になりたいかを思い浮かべる、という方法をお話しさせていただきました。そうすることで、なりたい姿と現状の姿との乖離を認識できるようになり、両者の隙間を埋めるためにBPO対象として切り出すのはどの業務か、BPO導入に当たってどこが課題となるのかが形を取って見えてくるわけです。

課題というひと山は、お客様の社内状況により、業務難易度の高低、影響範囲の大小、解決に要する期間の長短などが組み合わさって、実に様々なタイミングとパターンで現れます。それを切り出す方法もまた多岐に渡りますが、BPOコンサルティングの現場から、できるだけ早期に実施することをお勧めしたいのが、社内のペーパーレス化の進捗状況の確認と、それに起因する課題の認識です。

またしても細かい話だな、と思われるかもしれません。しかし、ある業務をBPO対象としたいと考えた時、意外にやっかいな障壁となるのが証憑・書式の紙ベース運用なのです。なにせそのままの運用を続けるということになれば、業務を実際にどう行おうか、課題をどう解決しようかという検討を始めるより先に、紙を人のところまで動かすのか、それとも人を紙のところまで動かすのか、という社内の意思決定が必要になります。そしてその決定には、また都度の課題が付随してくるのです。

「紙を動かす」ケースとしては、代替えの利かない原本証憑を、毎月コストを掛けてチェック業務を行う拠点まで輸送している、といった例が挙げられます。「人を動かす」ケースでは、前回コラムでも、テレワーク推奨の時流の中で社員が証憑を処理するために出社を余儀なくされている、という話がありました。どちらにもコスト・人財運用におけるマイナス面やリスクの課題が含まれており、紙ベース運用を継続する限りBPO導入後も解消されないことは言うまでもありません。

それならば紙ベース運用を止め、ペーパーレス運用へ転換しようという動きは、こういった課題をそもそも発生させなければよい、という解決策です。書式のワークフロー化や証憑のPDF化、電子商取引システムなどの導入は、「人と紙」の関係を「人と情報」の関係に変え、両者の距離感を革新的に近づけることができるでしょう。テレワークなどのニューノーマル下の業務形態への貢献度も非常に高いプロセス改善ですから、ペーパーレス化の舵切りが社員の皆様のモチベーションへ与えるプラス影響も、また少なくありません。

こうして見てきますと、ペーパーレス運用は紙ベース運用に比して良いことづくめです。BPO導入においても非常に有効な手段なのですが、一点だけ、転換に要する時間には注意を払う必要があります。
おそらく皆様が今ちらりとご想像されました通り、この課題解決方法では、ペーパーレス運用の新規構築、社内の各部署・お取引先様への周知と実務移行、または全社システムの導入といったことを完了させるために、段階を踏んだ一定の期間が必要です。BPO導入検討に当たって社内運用を見直し、ペーパーレス運用への転換を意思決定するなら、必要となる時間も認識し、全体スケジュールに大きな影響があることを視野に入れざるを得ないのです。

しかし実際のところ、BPO導入の現場に立った時、1回のBPO導入フェーズで徹頭徹尾「なりたい姿」になれるという例は多くは見られません。特に、お客様が社内運用の改善とBPO導入を並列で進行させると決定された場合は、改善と導入のフェーズを交互に積み上げ、未来でなりたい姿をイメージしつつ、現在の部分を着実に形作って行く必要があります。まずこの業務からBPO化をスタートしよう、その間にこちらの業務の社内改善を進めて、完了すればBPO化を、といったフェーズ同士の優先順位と重なり合いが、スケジュール上に自ずと発生してくるわけです。

ペーパーレス運用への転換に要する時間は、こういったBPO導入の流れの縮図と言えます。そしてこの点こそが、早期に社内のペーパーレス化状況の確認を、とお勧めすることの最大の理由です。紙ベース運用の実態を把握し、転換を必要としない業務(=即時にBPO対象とできる)と必要とする業務(=社内改善ののちBPO対象とできる)を切り分けて課題を認識し、転換完了までのスケジューリング(=フェーズの認識)を行うという作業の経験は、BPO導入のはじまりの時点でプロジェクト参加者の目線合わせができる恰好の機会でもあるからです。

いかがでしょう、貴社は業務のペーパーレス化のひと山をすでに越えていらっしゃいますでしょうか? それとも今まさに麓に立っておられるところでしょうか? 始める時が一番早い時、と世に言うところもあります。BPO導入検討を機に、社内の状況をあらためて確認してみませんか。