経営管理は、経営ニーズと時代の要請を受けて、発展してきた(第1回)。経営管理を支える情報システムも、ニーズの変化とIT技術の進化の中で、発展してきた(第2回)。しかし、積み残してきた課題も散見される状況にあった(第3回)。欧米を中心にデジタル技術の活用が進み、その動きが全世界に広がり、DXの時代となった(第4回)。DX推進の観点から日本企業の抱える課題として、「レガシーシステムの問題」と「IT戦略不在」が挙げられた(第5回)。
経営管理の視点で見てみると、従来のコンピュータ化は、「業務の効率化」、「管理の見える化」、「情報の共有化」が中心的なテーマであった。今後のDXに対する経営管理への期待は、「意思決定方法の変革」、「組織運営の変革」に向かうと考えられた。経営管理全体を底上げし、DX時代に備えるためには、先ず従来のコンピュータ化の3つの課題を克服し、さらにDXの2つのテーマに取り組む必要がある。今回は、「DXに向けた経営管理の整備」と「経営管理整備上の留意点」について、整理を行う。
日本の企業では、現場の努力もあり製造部門の生産性、品質は世界一だと自負していた。しかし、管理部門は、手入力や手作業が多くて非効率で、決算や管理資料作成のスピードも遅いと認識されていた。間接部門は、コストセンターであり、スピードアップと効率化至上命令であった。これを改善するためには、システム間のデータ交換で手入力を減らしたり、処理を自動化したりし、「データ処理の効率」を上げることが求められた。
事業オペレーションが複雑化し、グローバル化が進む中で、経営実態が見なくなっていった。具体的には、製品原価や採算、事業業績の変動要因などが見えなくなっていった。管理部門が時間を掛けて資料を作成するが、資料間の整合性が取れていないこともあり、信頼性が低かった。そして、精度の低い資料で、経営判断を誤るリスクがあった。そのため、経営実態を示す「データの見える化」が求められた。
グローバル化が進む中で、国内子会社、海外現法で分散管理しているデータをExcelで収集し、経営管理資料を作成し、業績報告会で説明がなされた。収集・集計にかかる時間(ペーパ・リードタイム)が長く、意思決定のタイミングを逃してしまうリスクがあった。また、業績悪化の兆候について現地に問い合わせを行っても、実態把握に時間が掛かる場合が多かった。そのため、業績に関わる「データの共有化」が求められた。
DXの時代では、デジタル技術を活用した「既存事業の即応力強化」や「新規事業の創出」が期待されている。
DXの時代に向けた経営管理の5つのポイントは、「効率的にデータを処理」し、「正確なデータを見える化」し、「データを共有化」を図る。さらに進むと、「膨大なデータを分析」したり、「意図的に集めたデータを活用したビジネス展開」が実現可能になる。つまり、これからの経営管理は、従来のExcel と紙の資料による「バトンタッチ式の意思決定」から脱却し、「データに基づく経営」を徹底することだと言える。
企業活動においては、「正しいデータ」を、「使いたい粒度とタイミング」で使えることが必要不可欠である。それが叶わなければ、業務を遂行する上でも、経営意思決定を行う上でも、リスクが高まる。必要なデータとは何かを定義せずに、ビックデータの時代だからといって、無目的にデータを蓄積しても、結局は価値を生み出さないことになる。「求めるデータは何か」の定義がなければ、何も始まらない。
これまで見てきたように、ERPの最大のメリットは、システムの個別最適化から脱却し、販売・調達・生産・会計等の主要機能をリアルタイム統合したことにある。しかし、ERPさえ導入すれば全て解決する訳ではない。基幹システム、経営情報等の情報系システム、さらには、外部のクラウドサービスを目的に合わせて使い分けていくことが必要となる。こうした実装形態を、ERPの統合型(密結合型)に対して、独立したモジュールが連携させる「疎結合型」と呼ぶ。IT戦略の中では、こうした実装形態も考えていく必要がある。
疎結合型システム体系 | |
---|---|
モデル | |
特徴 | 機能を部品化し、各部門のニーズに応じてカスタマイズ、IFで連携 |
メリット | 業務プロセス、データの統合と個別ニーズへの対応の両立を目指す |
デメリット | 機能毎にシステム分割で難易度、複雑性増す、OnpreとCloud連係等 |
備考 | APIで連携 |
これまで、6回に渡り「DX時代に向けた経営管理の整備」と題して、
と話を進めてきた。個々の技術論、事例は書籍、雑誌、インターネットなどに記載されており、そちらを参照願いたい。本コラムの中で、一貫して、また繰り返し述べてきたことは、
ということである。これを読まれた方々にとって、「自社の課題を点検し、将来に向けて一歩踏み出す」契機となれば、幸いである。
なお、連結経営管理については、以下の私の記事も参照いただければ幸いである。
【RPA開発Tips】いまさらだけれどWinActor Manager on Cloudとは?
激変する調達/購買環境を乗り越え、企業価値向上につながる調達/購買DXの進め方(第2回 システム編)
本当にそれでいいのか? ERP導入の進め方 システム導入編(1)
本当にそれでいいのか? ERP導入の進め方 プロジェクト管理編(2)
【RPA開発Tips】ファイル操作に強くなる 後編
SAP導入、悩むユーザー部門:「ゆるふわ要件定義」を防ぐ対策3点
SAP導入、悩むユーザー部門:「ゆるふわ要件定義」にご注意を!
【RPA開発Tips】Webブラウザ操作に強くなる(後編)
【RPA開発Tips】Webブラウザ操作に強くなる(前編)
【RPA入門】フローチャートを学ぶ(応用編)
【RPA入門】フローチャートを学ぶ(基本編)