昨今、デジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)が、企業の在り方を根底から変える企業インフラ、社会インフラとして注目を浴びている。新聞、雑誌、書籍、インターネットでは、DXに関する記事が膨大に出ている。しかし、膨大な内容が包含されているために、「DXとは要は何か」が、分かりにくくなっている方もおられると思われる。そこで、少々乱暴な私見だが、簡単に整理してみる。
歴史で習った産業革命を思い出してみると、
第一次産業革命は、1700年代後半から1800年代前半の「蒸気機関を動力とした機械化による鉄道や製鉄業」
第二次産業革命は、1800年代後半の「電力、石油を用いた大量生産と化学技術の革新、自動車産業」
第三次産業革命は、1900年代後半の「コンピュータによる機械の自動化、エレクトロニクス産業、IT産業」
という流れであった。そして、現代に起こりつつあり変化を
第四次産業革命(Industrie4.0)と呼び、「ロボット、AI、IoTなどを用いた機械の自律化と産業構造の変化」を表している。
現在では一般化した「インダストリー4.0」であるが、もともとは、2013年に発表された「製造立国としての生き残りを掛けたドイツ連邦政府の国家プロジェクト」に由来している。この活動は、ドイツ流製造業を世界標準にするという『スマートファクトリー』というコンセプトが背景にあった。政府の働きかけで大学、研究機関、シーメンスなどの製造業、SAPなどのIT産業などを巻き込んだ国家プロジェクトであった。
ドイツ政府の製造業に焦点を当てた動きとは別に、米国では、ゼネラル・エレクトリック (GE) など民間企業が中心となった「インダストリアル・インターネット」という活動があった。これは、製造業だけをメインにするのではなく、エネルギー、ヘルスケア、製造業、公共、運輸の5つの領域を対象とした。この活動を主導しているのは「IIC:Industrial Internet Consortium」という組織で、GE社、Intel社、Sisco Systems社、IBM社、AT&T社の5社が創設した。参加企業は既に100社を超え、米国企業のみならず欧州企業、日本企業、中国企業など幅広く参画している。
インダストリー4.0、インダストリアル・インターネットに続いて、世界各国で様々な活動が開始され、世界的な潮流となった。DXが突然でてきたのではなく、これらの活動が、DXの契機となったと考えられる。
デジタルトランスフォーメーションの用語は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と定義した。この定義は、非常に概念的であるため、その後、調査会社、研究所、政府機関などが、独自の解釈で様々な定義を行った。
日本では、2018年経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を発足させ、DX推進のためのレポート、ガイドラインを策定し、定義を行っている。それを要約すると、
「DXとは、デジタル技術を活用し、企業(※)を変革し、競争優位性を確立・維持すること」
となっている。(※企業:会社、ビジネス、製品・サービス、業務・プロセス、組織・制度、文化・風土を包含)
DXを支える基盤として注目されている技術について、簡単に確認する。
Internet of Things(モノのインターネット)という用語は、センサの国際標準を確立したMITの研究所の共同設立者であるケビン・アシュトンが、「ユビキタスセンサを通してインターネットが物理世界を繋ぐシステム」を表す言葉として、1999年に名付けたことで知られている。現在は、「モノ(物)がインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組み」として発展し、現実世界の物事に関わる情報をデジタル化し、活用可能にする基盤として注目されている。
人工知能(AI)の研究分野の一つである「機械学習」は、データを解析し、その結果から判断や予測を行うための規則性やルールを見つけ出す手法であり、IoTで自動収集された膨大なデータ(ビックデータ)を効率的、効果的に分析する手段として注目されている。
サーバの運用形態は、2つに大別することが出来る。一つ目は、自社で保有する設備でシステムを運用する「オンプレミス型」であり、2つ目は、自社ではシステムを保有しないで、必要に応じて外部業者の運用するサービス(クラウドサービス)を利用する「クラウド型」である。
オンプレミスにはメリットが多々ある。具体的には、「思い通りに構成でき、既存システムと連携しやすい」「自社内のシステムなのでトラブルに対応しやすい」「自社内のシステムでセキュリティを確保しやすい」などが挙げられる。一方、デメリットとしては、開発・運用に「コストがかかる」「時間がかかる」などが挙げられる。それに対してクラウドは、「必要な時に、必要なサービスを、必要な規模」で、利用することができる。また、「利用した分だけ料金を支払う」という形態のため、「コストや時間がかからない」「サーバのスペックを自由に変更できる」「税金面のメリットが期待できる」などが挙げられる。また、デメリットとしては、「思い通りに構成できない」「トラブルに対応しづらい」「継続的にコストが発生する」などが挙げられる。
DXでは、揺籃期ということもあり、データ活用の要求が逐次変化することが考えられ、企業内でシステムを企画・開発していては、スピードが追い付かない可能性が高いと考えられる。また、IoTのデータ活用が進むほど、爆発的にデータ量が増え、設備増強が必要になる可能性もある。そのため、「IoTでインターネット上に確保されたデータ」を「様々なアプリケーションのクラウドサービス」を使って「インターネット上で処理」する形態が、今後の姿として有望視されている。そして、その結果を、データ交換により、オンプレミスのシステムにも反映し、活用していくことが考えられている。
DXは広範な概念のため、様々なテーマを内在している。DX関連用語が数多く出ており、面食らってしまう。代表的な用語と分類例を、以下に示す。(解説は専門書参照)
「デジタル技術の活用によって、市場の優位性を獲得する」ことが、今後の企業戦略の核になると考えられたために、DXが注目された。企業経営におけるDXの狙いを概括すると、以下のようにまとめられる。
従来のコンピュータ化 | DXへの期待 | |
---|---|---|
企業戦略 |
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【既存事業の即応力強化】
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【新規事業の創出】
|
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経営管理 |
|
【経営管理の変革】
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