第3回 経営管理領域の課題

業務ニーズの変化とIT技術の進化に合わせて、経営管理領域の業務とシステムの整備が進められてきた。しかし、多くの企業では「積み残してきた課題」「新たな課題」を抱えている実態がある。この回では、「積み残してきた課題」について、考えてみる。

1.企業の抱える業務課題

先ず、実際に現場でよく耳にする課題について、代表的なものを列挙する。

(1)単体制度会計(子会社を含む)

  1. 決算日程が遅い
    子会社の決算日程がバラバラで、各社の業績報告の足並みがそろわない。
  2. ペーパーレス化の遅れ
    紙の伝票を多用しており、また証憑のほとんどを紙で保管しているため、監査対応も支障が出ている。
  3. 決算精度が低い
    決算の締め日までに、全ての請求書が確保できておらず、費用が確定していない中で決算を締めている。
  4. 業績報告が遅い
    業績変動要因の分析をタイムリーにできないために、業績報告が遅い。

(2)制度連結

  1. 連結決算
    標準勘定科目、コードが徹底されておらず、子会社からの報告書を本社側で読み替えている。
    子会社の提出内容に不整合があり、本社側でデータチェックや内容確認に大きな工数をかけている。
    データが不足しているために、未実現利益等について簡便計算しかできず、連結決算精度に問題がある。
  2. 内部取引管理
    子会社間、本社・子会社間の売上・仕入、債権・債務の差異があり、照合に工数がかかっている。

(3)単体管理会計(子会社を含む)

  1. 単体予算管理
    生販在計画(SPI)を完全に反映しておらず、予算精度が低い。
  2. 単体原価計算、原価管理
    決算のための原価計算を行っているが、製品別原価の把握が出来ていない。
  3. 単体業績管理
    個社の業績変動要因の分析が、的確かつタイムリーに出来ない。

(4)管理連結、財務管理、経営管理

  1. 連結予算管理
    生販子会社の予算間の整合性確保が難しく、また、連結予算の編成、見直し等に時間がかかる。
  2. 連結原価管理
    海外生産の製品について、内部利益や為替の問題があり、実際の原価が分からない。
  3. 連結資金管理
    グループ内で資金の偏在が起きており、余剰資金がありながら、無駄な借り入れが発生している。
  4. 連結業績管理
    グループの業績変動要因の分析が、的確かつタイムリーに出来ない。

これらの課題全てに該当している会社は少ないとは思われる。しかし、皆無であると胸を張って言える会社も多くないと思われる。何らかの課題が該当していれば、「積み残し課題」が存在していることになる。

2.ITに起因する課題

続いて、ITに起因する課題について、代表的なものを列挙する。

(1)単体会計、経営管理システム(子会社を含む)

  1. 会計パッケージもしくはERP(会計モジュール)導入時の課題
    ERPの会計のみを入れたが、基幹システムとのI/Fが不十分で、データ修正・削除に手間がかかる。
  2. ERP(ビックバン)導入時の課題
    ERPを導入したが、組織変更、事業構造変化に保守が間に合わず、会社の実態に合っていない。
  3. スクラッチ開発、Excelの多用、システムの複雑化
    パッケージで「カバーされない機能」や「使いにくいと判断された機能」については、スクラッチ開発やExcelで対応している。業務・システムの複雑化、データの不整合の状況があり、業務やデータ活用に問題がある。
  4. SAP2025年問題(もしくは2027年問題)
    SAP2025問題(第5回で解説予定)があるが、システムの再整備どころか対応方針も決まっていない。

(2)連結管理、経営管理システム

  1. 子会社のIT基盤のバラつき
    子会社が個別判断でERPや現地ソフトを導入した結果、子会社指導等について個別対応が求められる。
  2. パッケージソフトの機能的な限界とExcelの多用
    制度連結については専用パッケージを使っているが、管理連結、資金管理、原価管理等の領域についてもパッケージがなく、Excelを多用しているため、属人的なオペレーションとなっている。

(3)内部人材に起因する課題

  1. 業務人材育成の問題
    連結、財務、決算、税務毎に分業化が進んでおり、将来に向けた全体企画をできる人材がいない。
  2. 情報システム部門の外部依存、システムのブラックボックス化
    情報システム部門は、コストセンターとして削減対象になり、企画機能は残すも、プログラム開発や運用管理については外注化が進んだ。さらに、ERPや業務パッケージの導入は、業務部門と専門業者が直接やり取りするケースが多く、企画機能を果たせずに、IT調達部門の色彩が強くなった。さらに、高齢化が進み退職者や配置転換が進むと、既存システムの知識が流出し、ブラックボックス化が起きた。外部依存、企画・開発力低下、既存システムのブラックボックス化で、システム部門のポジション低下が進んだ。

(4)外部人材(パートナーであるSIer、コンサル会社)に起因する問題

  • 企画者の問題
    (A) システム企画の方法論の知識
    個別システムの開発・改修やパッケージ導入が主体となっていた。そのため、体系的な方法論を適用し、トップダウン的にシステムの全体構想や情報化戦略の策定を支援できる人材は限られていた。
    (B) 業務の理解
    パッケージの機能を理解することで業務知識を得ていたため、パッケージの存在しない領域については対応ができなくなっていた。

    企画者の対応領域

    単体制度会計 単体管理会計
    単体財務管理
    連結制度会計 連結管理会計
    連結財務会計
    連結経営管理
    第一世代
    企画者
    一般会計
    債権債務
    固定資産
    リース資産管理
    入出金管理
    手形管理
    第二世代
    企画者
    (同上) 単体原価計算・管理
    単体予算編成
    単体予実管理
    単体資金・為替管理
    第三世代
    企画者
    (同上) (同上) データ収集
    連結会計
    第四世代
    企画者
    (同上) (同上) (同上) 連結原価管理
    連結予算編成
    連結・法人別予実管理
    連結資金・為替管理
    プロジェクト会計
    グループ内部取引管理
    グループ経営管理
    (財務・非財務データ)
    経営分析・シミュレーション
    国際税務対応(BEPS)
    備考 下線は、パッケージソフトでカバーされる業務機能
  • 技術・開発の問題
    (A) 技術の多様化とマルチベンダー化
    ERP、業務パッケージ、ETL、BI、RPA等の様々なソフトウェアが存在し、インメモリーDB、クラウド、AIなど、新しい基盤技術も実用化されつつある。それぞれに専門のベンダー、技術者が存在した。そのため、システムを企画する上で、技術全体を俯瞰することが困難な状況になった。
    (B) 設計・開発アプローチの多様化
    ソフトウェアの開発目的も多様化しており、日常業務を支援する業務システム、分析が中心の業績管理システム、外部との接続を前提としたWebシステム、さらに今後のDX対応のシステムなど様々なアプリケーションが考えられる。そのため、ソフトウェアの特性に合わせて、最適な進め方(開発アプローチ)を選択する必要な状況になってきた。しかし、特定のプログラム言語や特定のパッケージ導入の経験があるだけで、いろいろな開発アプローチについては、未知の内容であった。