業務ニーズ、IT技術の進化を受けて、経営管理領域のシステムの整備が進められた。ここで、簡単に振り返ってみると、以下の通り概括できる。
(1)個別最適化の時代
情報化の主体はメインフレームであり、コンピュータは非常に高価であった。そのため、給与計算や生産管理など、人手ではやりきれない大量データを処理するテーマに特化して、システム化が行われた。この時代は、実用に耐えるパッケージ・ソフトが少なく、手作り(スクラッチ開発)が主流であった。また、パッケージ・ソフトを採用したとしても、大幅にカスタマイズ(改修)、アドオン(外付機能の開発)を行うのが一般的であった。
80年代後半には、パソコンやオフコン、サーバといった小型、中型のコンピュータも使うようになった。パソコンにはワープロや表計算ソフトが導入され、小中規模の業務パッケージも活用が徐々に進んだ。こうしたソフトが、メインフレームではカバーされてこなかった領域に、使われるようになった。結果として、この時代は、メインフレーム、サーバ、オフコン、パソコンを使い分けて、個別最適化を追求したと言える。
(2)「情報の孤島化」の進展
個別最適化を追求した結果、必然的に、異なる情報インフラ(IT基盤)が業務システム毎に乱立することになった。機能が相互に関連付けられていないために、業務システム間の情報の共有やデータ交換は行われず、孤立した状態となっており、「情報の孤島化」と表現される状況にあった。個別最適システムの乱立の中で、様々な基盤を保守・運用することになった企業の情報システム部門が、大きな困難に直面することになった。
(3)会計、経営管理の状況
情報の孤島化の状況下では、業務は分断されており、データ交換がされないために、会計システムに反映されるデータも、紙のデータをマニュアルで入力する場面が多く、業務の低効率性が、大きな課題だった。
(4)システム構築の状況
スクラッチ開発が主流であったために、システムの設計者の技量に全てが委ねられていた。そのため、特に大規模開発での失敗が世界中で多発した。コンサルティング各社は、システム企画・設計・構築のノウハウを集約した「方法論」の開発に力を入れた。また、先進企業では、コンサルティング会社や大手コンピュータメーカが開発した方法論を研究し、「自社の方法論」を開発し、自社標準として普及させた。
(1)標準化推進の時代
情報の孤島化で、保守・運用の負荷が増大し、また、データ入力の負荷も大きくなっていた。孤島化を改善するために「IT基盤の標準化」が進められた。全社的に共通の技術、ソフトウェア、ハードウェアが適用され、保守・運用コスト低減とIT基盤の信頼性向上が図られた。
異なるメーカのコンピュータを使っている場合には、データを別のコンピュータに渡そうとしても、データ形式が異なっていたために、一文字ずつ変換しないと使えないという事態も起こった。IT基盤の標準化に合わせて技術的には、データ交換の構築は容易になった。しかし、業務システム間で、コード体系が異なったり、必要情報(属性情報)が異なっていたりしたため、データ交換は限定的であった(統合レベルが低かった)。
(2)経営管理の状況
IT基盤の標準化の中で、「ペーパーレス化」、「業務の効率化」、「決算日程の短縮」を狙いとした単体会計システムの整備が積極的に進められた。これにより、会計システムの体系化、データ交換環境の整備が進んだ。また、海外展開が進んでいた一部の企業では、自社開発の連結会計システムを構築するところも出てきた。
(3)システム構築の状況
標準IT基盤の上で、全社的な大規模システム開発が盛んに行われるようになったため、方法論の重要性はさらに増し、広く普及していった。また、会計、生産管理といった業務パッケージも普及していった。
(1)統合化推進の時代
「情報の孤島化」「IT基盤の乱立」の一つの解決策として、ERPが認知され、世界的に普及し始めた。ERPは、企業の主要機能を包含する巨大パッケージであり、販売・調達・生産と会計をリアルタイムで統合することを設計コンセプトとしていた。
海外では、ERP導入が主流であり、「グローバル・スタンダード」「ベスト・プラクティス」の名のもと、SAPなどの各種ERPの採用が本格化した。日本でもERPの導入が始まったが、ERP導入自体が目的化してしまい、企業としての「目指すべき姿」を見失っているのではないか、と受け取られる状況が散見された。
(2)経営管理の状況
ERPの導入とともに、「ペーパーレス化」、「業務の効率化」、「決算日程の短縮」の問題は改善され、管理会計に関心が移っていった。海外展開が進んでいる会社では、単体の制度会計システムの整備後に、連結会計システムの整備に着手するケースが増えた。また、2000年以降は、これまで、Excelで管理していた単体・連結の予算編成・予実管理をはじめとする管理会計テーマへの取り組みが顕著になっていった。また、一部の業界では、移転価格税制のターゲットにされたため、製品別の採算、取引価格を管理する動きも出てきた。
(3)情報システム部門の状況
ERPの導入がIT化の柱になると、企業の関心は、システム企画・設計・開発から、ERPの効率的な導入に移った。情報システム部門は、業務単位にシステムの開発・運用を担当していたために、全社システムであるERP導入は難易度が高く、専門のベンダーへの依存が高まった。また、開示対応の連結会計についても、パッケージ・ソフトの導入を前提で、業務の難易度が高かったため、ユーザとベンダーが直接会話して進められた。この時点で、情報システム部門は、企画・開発機能は薄れ、IT調達が主たる役割となった会社も多かった。
その一方で、力のある情報システム部門は、1990年代後半から、IT中期戦略の策定、ERPのグローバル展開、BIツールの試行、連結経営管理のシステム整備などの取り組みを行ってきており、企業間で格差が広がった。
個別最適型(孤島化) | 共通基盤型(IF連携型) | 統合型(ERP型) | |
---|---|---|---|
モデル | |||
特徴 | 業務毎に独自にIT基盤や業務アプリケーションを選定、導入 | 全社的な共通の技術・ソフトウェアで、業務整備、必要なインターフェースを構築 | 業務間でマスターや業務データが全社で共通化され、全体最適が進む |
メリット | 個別最適のため、ユーザの要求に対応することができる | 保守・運用コストを圧縮できる インフラの信頼性が向上する |
効率的なIT運営が可能 業務全体の品質も向上 |
デメリット | 個別最適のシステムが乱立するため、保守・運用管理の負荷が増大 | 共通基盤が老朽化時のコスト負担が大きい 統合レベルは低い |
共通基盤老朽化時のコスト負担が大きい 密結合のため、部分差し替えが困難のため、事業環境や方針変化への迅速な対応が難しい |
備考 | PC、オフコン、サーバ、メインフレーム等の使い分け | 標準のメインフレームもしくは、サーバの上で構築 | ERPで統合化 |
情報化視点から見てきた「経営管理システムの歴史的な経過」を踏まえると、状況は4つにまとめられる。
(1)個別最適の推進
個別業務単位に効率化を主眼としたシステムの整備を推進した。
(2)共通基盤上でのシステム連係の推進
業務毎に独立した標準パッケージ(単体会計、連結会計)を共通IT基盤の上に導入した。また、関係システムとのデータ交換を実現し、システム連係を改善した。
(3)ERPによる業務統合化の推進
業務横断的な統合を図るERPで、企業内データの一元管理を目指す。ERPの導入では、主要業務を一度に入れ替える必要があり、業務負荷、コスト負担が大きく、失敗した時の業務リスクも甚大になる可能性があった。そのため、日本では、会計モジュールだけを導入した会社も多かったが、その場合にはコスト対効果は限定的であった。
(4)ERPではカバーされないテーマの推進
予算編成等の単体管理会計、BIツールの試行、連結経営管理のシステム整備など、ERPではカバーされないテーマのシステム化が進められた。
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