人的資本経営~「攻め」の開示で企業価値向上を~

1.はじめに

人的資本の情報開示は、その目的によって、「攻め」の開示と「守り」の開示に分類ができます。そのため、開示の効果を最大化させるためには、収集した情報をただ社内外に開示するだけではなく、開示の目的を意識し、実際に開示すべき情報をしっかり整理することが必要です。

本稿では、BBS HCM Insight シリーズの第3回として、企業価値向上を実現するために、「攻め」の情報開示の重要性を説明します。

では、早速始めましょう。

2.「攻め」の開示と「守り」の開示

まず、「攻め」の開示と「守り」の開示について、それぞれの定義と目的を説明します。

「守り」の開示は法規制や開示要求への対応のための情報開示です。法律で求められている項目の開示ができていないと、その企業のガバナンス体制が疑問視され、ペナルティが課されることもあります。したがって「守り」の開示における重要な観点は、要求を満たす情報を定量的に開示できているか、であり、リスクの予防のための開示といえます。

それに対し、「攻め」の開示は自社の中長期的な成長につながる情報開示です。中長期的な成長のために、将来の人的資本をどのように確保していくかを考え、その進捗具合を測るKPIを設定し、情報を開示します。「攻め」の開示では、自社の成長を客観的に裏付ける情報を開示する必要があり、言い換えると、機会の創出のための情報開示です。

「攻め」の開示と「守り」の開示

リスクの予防(守り)と機会の創出(攻め)。このように整理すると、真の企業価値向上につながるのは、「攻め」の開示だといえます。現在、人的資本の可視化が加速度的に進み、開示に取り組む企業が増えていますが、「攻め」の開示に取り組む企業は限られており、未だに「守り」の開示が主流です。

「守り」の開示が活発化していくなかで、「攻め」の開示ができていることは、人的資本の開示において大きなリードとなり得ます。ここで、「攻め」の開示を行い、社内外のステークホルダーに将来性の判断のための情報を提供すると、具体的にどんな効果があるのかを説明します。

3.「攻め」の開示で見込まれる効果(3つの市場)

本稿では、「攻め」の情報開示によって得られる効果を、「3つの市場」としてまとめました。それぞれ紹介します。

「攻め」の開示で見込まれる効果(3つの市場)

まず、投資市場です。開示により、将来必要となる人的資本を獲得する道筋を示し、成長を客観的に裏付けできている企業は、投資を呼び込みやすくなり、資金源の確保が有利になります。

続いて、労働市場です。入社してからの評価が高い、いわゆる優秀人財は、就職/転職時に、企業のWebサイトや就職サイトのレビューなどに加え、有価証券報告書やHRレポートなどを確認する傾向がある、というデータがあります。ですから、人的資本経営に取り組み、ポジティブ、ネガティブにかかわらず、その成果を開示することは、採用する人財の質・量、ともに向上することができます。

また、社員の目線からは、人的資本に投資をすることで、「自分たちの会社は、自分たちのことをきちんと考えてくれているのだな」と認識することができ、人的資本経営の取り組みの成果と合わせて、より長く働きたいと思える職場となります。

最後に、経済市場、つまりはお客様との取引の場です。現在、多くの企業、とくに上場企業が開示義務に応えるための取り組みを行っていますが、そうしたなかで、一歩先の、より本質的で先進的な取り組みができていると、成長性があるという点でより大きな注目を集めることができます。人的資本経営に取り組むことで、競争優位性が確保できることとなり、お客様から選ばれやすい企業になります。

4.最後に

法整備や開示要求が強化されている現在、「守り」の開示は、もはや、やらなくては企業の存続に関わる、といえます。そこで、「守り」の開示だけで良いか、「攻め」の開示も始めるか。これが、人的資本経営を前進させていくうえで大きな一歩となります。

そうはいっても、「攻め」の開示は、気軽に始められるものではないと思います。そこで、次回、第4回では、「攻め」の開示を実現するために必要な3つの要素を説明します。
それでは、次回の投稿でまたお会いしましょう。