グローバル経営を加速するグループ経営管理システム導入を成功させるポイント

近年、COVID-19後のさまざまな変化やAIなど新技術の活用など、企業を取り巻く環境変化の速度はさらに加速しており、経営戦略の見直しが求められています。また、戦略に応じて、組織体制も見直しが必要であり、M&Aや海外子会社を含めた統廃合などグループ再編を継続的に実施していく必要があります。
このような状況において、グループ全体の舵取りを適切に行うためには、グループ全体の業績をタイムリーに把握していくことが必要です。実績情報はもちろんですが、予算、見通しといった将来予測情報をタイムリーに把握し、迅速に意思決定することが求められます。しかしながら、これらの情報を管理するシステム基盤は脆弱であることが多く、大手企業であっても以下のような課題を抱えています。

  • 子会社からのデータの精度が低い、データ提出が遅い
  • EXCELでデータを管理しており提出もEXCELのため、収集プロセスに手戻りが発生する
  • 組織の統廃合があった際、データをすぐに収集・集計できない
  • 分析したい軸でデータをすぐに見られない
  • 為替の影響をタイムリーに把握できない、予測シミュレーションをすぐに実施できない
  • 子会社のインフラが整っていない

グループ経営を強化するためには、必要な情報を迅速に収集・分析できる基盤の整備が急務です。今回は、海外子会社を多く抱えるいくつかの企業に対して行った支援に基づき、システム刷新を成功させるためのポイントを解説します。

1. 予算報告フォームの標準化

共通の管理会計システムを導入して、海外拠点から予算を収集する場合、管理項目と予算報告フォームの標準化が重要となります。各国の法令/基準に対応して固有の管理項目がある場合は、必要な項目を取捨選択し、可能な限り全社標準化をめざします。
とくに多拠点から収集する場合は、前年実績や本社からのトップダウン指標を加味した予算参考値をプリセットし、それをベースに現地予算を作成してもらう仕組みとすることで、本社事務局は海外拠点をコントロールしやすくなり、海外拠点側も予算の報告が容易になります。

2. 報告値のチェック機能

海外子会社とは時差などもありタイムリーにコミュニケーションをとれないことから、精度の低いデータを提出されると確認や差し戻しの手間が多くなってしまいます。そのため、いかに精度の高いデータを一発で報告してもらうかが重要なポイントです。
まずはEXCELを廃止し、管理会計システムを導入することで、報告フォームのバージョン違いや数式破壊による報告ミスを低減できます。
さらに、チェック機能を実装し、予算参考値と報告値の乖離が大きい場合にアラートを表示するようにすることで、入力ミスを低減することができます。逆に、根拠があって乖離が発生する場合は、その理由を記入することでアラートを許容する仕組みにします。このチェック機能を充実させることで、収集プロセスの手戻りを徹底的に抑制することができます。

3. 組織マスタの整備

実際の組織をそのままマスタ化してしまうと、階層の深さがバラバラになり、組織再編時のマスタ変更や管理軸でのデータ分析が困難になります。そこで、あらかじめ管理上の組織マスタを定義し、階層は必要な数だけ確保しておきます。各階層の組織マスタは、例えば第1階層:グループ全社、第2階層:事業地域、第3階層:国、第4階層:拠点(会社)、といった具合に定めます。
また、会社独自の考えとして業績管理の単位を設定することもあります。例えば、子会社がさらにグループ管理されている場合は仮想の会社として一つにまとめる、業績が非常に小さく管理が煩雑になる場合は別の会社に管理を寄せる、などが挙げられます。
こうして組織マスタを定義することで管理軸の集計が容易になり、組織変更対応も単純化できます。

4. 集計用データ区分の設計

単なる組織や科目別の集計だけではなく、事業別、商品別、地域別などグループ全体を串刺しての集計・分析を行えるように、必要な集計・分析軸を洗い出し、データ区分として持たせておきます。これによりあらゆる軸でのリアルタイム集計が可能になります。
また、現地報告額に対しては、地域統括会社や本社での調整(意思込め)、連結調整額などを加算していくことから、この各段階別の数値を任意に選択して表示する、また単月/累計、期ズレあり/なし、単体/連結などの切り替えを行いながら、複数の軸を組み替えて表示できるレポート機能を用意することで、多様な視点での分析結果を得ることができます。

5. 複数レートによる為替影響シミュレーション

グローバルでの収支を把握するためには、為替の影響を正確に捉えられるか否かが重要なポイントとなります。単純に予算を予算レート、実績を実績レートで換算するだけでは不十分です。例えば、予算や見込策定時においては、複数の相場シナリオでのグループ損益をシミュレーションしたり、最新相場に基づき見込を最新化したり、業績評価用には為替影響額を計算しつつ、評価レートで再換算したりするなどのユースケースに対応しなければなりません。
また、大半のケースで基軸通貨(JPY、USD、EURなど)へのクロスレート換算機能を実装することも必要になります。システムとしては、任意のレートを複数保持でき、為替換算と為替影響額を出力するレポート機能を構築しておくことで、タイムリーに情報を把握することが可能になります。

6. アプリケーション配布の柔軟性

海外拠点のインフラ環境は国内とは大きく異なることがあります。例えば、国内は統一されたシンクライアントであるのに対し、海外ではOSバージョンもバラバラのスタンドアローン端末&国内イントラへのアクセスも制限されている、などです。この場合、アプリケーションを配布してもインストールできない、そもそもインストーラをDVDで現地に郵送しなければならないなどのトラブルが生じる可能性があります。
こうした問題に対して、マルチクライアントに対応したクラウド型の管理会計システムであれば、海外拠点からはブラウザー経由で利用し、国内ではインストール型アプリを利用する運用形態とすることで問題を解消することができます。もちろんクライアントをブラウザーに統一することも可能ですが、一般的にインストール型アプリの方がレスポンスに優れるため、用途に合わせてクライアントを選択できることが最も望ましいといえます。

7. まとめ

グローバル経営で求められるグループ経営管理システムの導入ポイントを述べてきました。とくに多拠点へ展開する際は、現地の意見を聞き過ぎてしまい要件が肥大化し、失敗に終わるケースが散見されます。意見の集約と取捨選択を行い、できるだけシンプルな標準を定め、運用することを推奨いたします。