予算管理業務の業務改革で陥りやすい失敗とその原因

予算管理業務の業務改革は待ったなし

コロナ渦が明け、急激な円高、物価の急激な上昇など経営環境の変化が激しくなるなか、経営を支える予算管理業務についても高度化・高速化が求められており、業務改革の必要性を感じておられる方も多いのではないでしょうか。
しかしながら、実際に業務改革を行ったものの、思ったような効果が出ないケースも散見されます。
そうした業務改革で陥りやすい失敗の事例を挙げて、その原因と成功へ導くためのポイントを考察してみたいと思います。

予算管理業務改革プロジェクトにおける反省点の例

(例1)戦略遂行への寄与や予測精度向上など本質的な課題解決につながっていない

説明 システム導入効果は作業の効率化にとどまり、分析力の向上や予測精度の向上など、経営課題を解決するための高度化を実現できていないケースがあります。
原因 各利用者の視点を踏まえた課題抽出と解決策の検討の欠如
予算管理業務の業務改革プロジェクトは、予算管理を行う部署が主導する場合がほとんどです。自分たちで課題の抽出や解決策の検討がしやすい、予算管理業務の効率化を主目的としてしまい、他の利用者の立場での課題抽出、解決策検討は後回しになる傾向があります。
成功ポイント 経営層、予算立案する現場責任者、予算管理を行う管理者など、予算管理業務に関わる各利用者の立場で課題抽出、要求定義をすることが必要です。

(例2)分析切り口を追加したり、シミュレーション機能を実装したりしたが、利用されていない

説明 細かい粒度での計画立案を志向したが、業務担当者の業務負荷の増加との兼ね合いで運用できず、活用されない機能となるケースがあります。
原因 運用面の検討不足
経営層からの要望を受けて分析の切り口を追加したものの、「その追加した切り口単位で実際に予算入力をするのは、予算入力担当者の負荷を増大させるのではないか」「実績はその切り口でデータを保持できているか、配賦計算が必要か。必要ならば誰がどのシステムを使って計算するのか」といった運用面について企画の段階で検討できていない場合が多いです。
成功ポイント 新しい要件を実現する際には、システム開発だけではなく、それを運用する各利用者の視点に立った新運用手順の妥当性も含めて、現実的な対応であるか否かを事前に検討しておく必要があります。

(例3)画面表示や処理の速度が遅く、ユーザビリティが悪い

説明 データ量や製品特性との不整合により、UIや性能に課題が出てしまうケースがあります。
原因 非機能面での現状把握と要件提示の欠如
一般的に予実分析の粒度を細かくすればするほどデータ量は増え、データ量が増えれば増えるほど画面表示や処理の速度は遅くなる傾向にあります。「予算入力画面であれば、入力は何回もしないので多少遅くても許容できる」「予実対比レポートは出力が頻繁なので1分以内に出ないと困る、いや10秒で出ないと困る」など、稼働後に利用者から要望が出されることがあります。企画の段階で、各利用者代表に現状の課題や要望をヒアリングする際、機能面だけでなく、性能やUIについてイメージのすり合わせをしておかなかったことが原因です。
成功ポイント システム導入を企画する際、機能面だけではなく、非機能面での要件を提示しておく必要があります。

(例4)段階的な拡張を予定していたが、仕様が複雑で内部リソースで対応できない

説明 製品特性を踏まえた業務変更が行われない結果、設計に無理が生じて複雑な仕様となってしまうケースがあります。
原因 製品特性に対する知見の欠如
予算管理システムによって、それぞれに得意とする設計方法があります。システム選定段階でさまざまな製品のデモや提案書を確認することで各システムの特徴はある程度理解できても、実際に自社の業務や要件に適合するかを判断できるほどの情報は得られない場合が多いです。システムベンダー側も、製品の特性は理解していても各社の予算管理業務を深く理解しているわけではありません。システムベンダーは、ヒアリング内容や現行の予算管理資料から理解できた範囲で適合性を判断し、提案することになりますから、発注側もその適否の判断は難しくなります。
成功ポイント システム選定時に業務要件と製品特性が適合しているかを確認しておく必要があります。不適合な箇所は、どのシステムを選定しても多少は発生するものと想定され、それを業務変更で対応できるかどうかの見極めがシステム選定時の大きなポイントになります。

(例5)経営層から求められるレポートの形式や経営指標が短期間で変わり、システムの改修が追い付かない

説明 経営環境の急激な変化を受けて、経営層から求められる予実管理の指標や切り口が追加されるケースが増えています。指標の計算方法の変更、切り口の追加にシステムが柔軟に対応できず、Excelで別途集計して対応しているケースがあります。
原因 自社の経営管理特性と製品との適合性の調査の欠如
経営層から求められるレポートや経営指標が頻繁に変わるか、継続性を重視してさほど変わらないか、また、どのような変更が想定されるかは、企業によって異なります。例えば「組織変更が頻繁で、しかもそれを予実対比に即座に反映しなければならない」「同じ情報を出すがレポートのレイアウトが頻繁に変わる」など、自社の経営管理の特性を把握し、あらかじめ想定してシステムを構築すれば、追加のシステム改修は最小限で済ませることも可能となります。
成功ポイント 将来的な変更のすべてを予測することは困難ですが、自社の特徴を踏まえた想定をしておくことで、ある程度の変化には対応できるシステムを構築することが可能となります。

予算管理業務改革は企画が重要

予算管理業務改革を成功させるには、現状分析とあるべき姿の定義、製品理解、非機能面の検討、適切なリソース・投資額検討など、業務・システムの両面に関する知見をベースとし、網羅的な企画が重要となります。
知見を有する人財が企画を立案する必要がありますが、自社内で確保するのは難しく、また専門コンサルタントを入れるほど投資額が潤沢ではない、という声をお聞きします。
そこで、現状分析とあるべき姿の定義など各社で特性の強く出る部分は自社の人財で行い、製品特性、非機能面の検討など実現方法の検討を専門コンサルタントまたはシステムベンダーに委託する方法が一番投資効果の出やすい方法です。
システムベンダーは取り扱っている製品のなかで実現方法を検討することになりますので、専門コンサルタントに特定の製品にこだわらず、実現方法を簡易診断してもらうのも一つの方法です。
弊社では、業務・システムの両面の知見を有するコンサルタントが「予算管理業務クイックサーベイ」を実施しておりますので、活用をご検討ください。