人事労務アドバイザリーサービス
2023年の就労条件総合調査(厚生労働省)によると、年次有給休暇の取得率が初めて6割を超えました。
年5日の取得を義務付ける法改正があったこともあり、近年の取得率は右肩上がりの傾向です。
働き方改革の進展をうかがえる明るい事実である反面、休暇の取得時には代替要員の確保やスケジュール調整などが必要となるため、会社側・上司側の負荷も増えているものと思います。
そうした背景もあってか、社労士として管理職向けの労務管理研修の講師をしているなかで、受講者の方から年次有給休暇関連のご質問を受けることが多くなったように感じます。
先日は、「繁忙期に自部署の部下複数名が同時期に年次有給休暇の取得を申し出てきたとして、全員に休まれると業務が回らない。拒むことができるか?」といったご質問を受けました。
もちろん、労基法上の時季変更権や関連する判例についてもお伝えしましたが、「それよりも大事なのは事前調整と信頼関係です」というお話をしました。
労基法や判例の勉強をしてみると、すべてが法律で白黒付くように錯覚することがあります。
しかし、実際には、ファジーな領域や解釈領域も多数存在しますし、実務で問題となるのは、ほとんどがこうした解釈領域の話です。
時季変更権をめぐる争いも解釈領域の話であり、「労働者の年次有給休暇の権利は相当に強く、時季変更権のハードルは極めて高い」ということや、「関連判例としてこうしたものがある」という温度感は伝えられても、「ご質問のケースは白ですor黒です」とは確答できません。
労務相談でいただくご相談は、多くが「白ですか? 黒ですか?」という内容ですが、解釈論や私見と併せてお伝えするのは「事前調整と信頼関係」の重要性です。
「白ですか? 黒ですか?」のご質問は、「喧嘩をした際に勝てる保証」を求めているのでしょう。
しかし、解釈領域の問題は、どこまで行っても「勝てる保証」などありません。
別の捉え方をすれば、「喧嘩」を想定した事態になっている時点で、すでに企業の労務管理的には負けなのだと思います。
労務管理の肝は、労使間の対立構造を招かないように事前に利害調整を行い、また、労使間で強固な信頼関係を構築することです。
これができていれば、そもそも問題として顕在化することがなく、「勝ち負け」の話になりません。
前述のご質問でも、
「労働者の時季指定権」対「使用者の時季変更権」という対立構造が生じず、問題として顕在化することもありません。
今後、人事部門が現場の管理職から年次有給休暇に関連した相談を受けることも増えるものと思います。
その際には、法的な観点での回答と併せて、「事前調整と信頼関係」の重要性もぜひお伝えいただければと思います。