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2019年4月の「働き方改革関連法」の施行により、企業などではさまざまな施策が実行されています。しかし、日本の「正社員」の総労働時間は減少していません。また、労働力の多様化の一環としての「非正規社員」の活用は、国際的に見て高い水準にありますが、日本の全体的な労働時間短縮という意味では道半ばです。以下、最近の労働時間に関する状況をいくつか紹介します。
まず、労働基準法改正の動きです。労基法では1日の労働時間を原則1日8時間、週40時間以内と定めていますが、36協定を届け出ることにより時間外労働が可能となります。その上限規制は2019年に定められ、原則として年720時間以内、月では時間外労働と休日労働の合計が100時間以内などとなっています。
一方、現在、例外的にこの規制を受けていない業種が4つあります。建設業、自動車運転業務、医師、鹿児島・沖縄の砂糖製造業です。しかし、これらの業種も2024年4月より、建設業、鹿児島・沖縄の砂糖製造業については時間外労働の上限がほぼ原則どおり適用されます。また、自動車運転業務は年960時間以内、医師は年1,860時間以内となるなど、原則を大きく上回ってはいるものの一定の規制に服するようになったという意味で、一歩前進しています。
次に、国際的に見た日本の労働時間についてです。2022年のOECD加盟44カ国の総労働時間(労働者1人当たりの平均総労働時間)データによると、総労働時間が長い順に、1位コロンビア(2,405時間/年)、2位メキシコ(2,226時間)、そして日本は30位(1,607時間)となっており、1990年の日本は6位(2,031時間/年)であったことを考えると、時短が大幅に進んだように見えます。
しかし、この間、日本では労働時間の短いパートタイム労働者の割合が13.6%から25.1%(OECD加盟国中4位)に増加したため、計算上1人当たりの労働時間は減少した形になっていますが、2022年の毎月勤労統計(速報)によれば、日本の一般労働者(正社員)における労働時間は162.3時間/月(年換算1,947.6時間/年)で、1990年のOECDデータ(2,031時間/年)から4%しか減っていません。
労働時間短縮の意義は、主として仕事と家庭生活のワークライフバランスの確保にありますが、私は労働力、とりわけ知的労働力の品質維持の観点からも重要であると考えます。知的労働の品質は、長時間にわたらない適切な時間で終了する効率的な労働においてこそ、保たれると思います。
1990年頃、「24時間働けますか?」というCMがありました。確かに労働時間が長時間になるほど貢献度が高まる分野はあるでしょう。しかし、効率的で質の高い知的労働が今後の企業収益にとってより重要になってきている、というトレンドの変化を労使双方で共有するところから、もう一段の時短に取り組みたいものです。