重要性を増す「男性育休の取得状況」。充実を図るための施策を講じよう

厚労省が、男性の育児休業の取得率について、公表義務を課す企業の対象を、現行の「従業員1,000人超の企業」から「300人超」に広げる方向で検討しており、2024年に育児・介護休業法の改正案を国会に提出することをめざしています。

男性育休の取得率は、その企業の人的資本強化への取り組みを表す重要な指標であり、矢継ぎ早の法改正から、政府も男性育休の充実を重視していることがうかがえます。「持続可能な企業」であるために、今後ますます重要な指標になっていくと考えられることから、各企業は充実を図るための施策を講じるべきです。

施策を検討するうえで、株式会社パーソル総合研究所「男性育休に関する定量調査」(2023年1月実施)が参考になります。

まず、取得率0%の企業では、男性育休の方針について、「特に方針はない」「最低限の法順守ができればよいと考えている」企業が多いとされています。このことから、無方針・受け身では取得率を向上させることはできず、意図的・能動的に施策を講じる必要があることがわかります。また、男性の育休に関する施策の実施状況を見ると、取得率5%未満の企業では、男性育休に関する「全社方針の発信」や「対象者への取得勧奨」の実施率が低いことがわかります。
以上より、取得率が著しく低い企業の場合、まずは、経営トップからの取得奨励の方針発表や、社内パンフレットの充実、研修の実施など、制度についての周知施策が必要といえます。

自社の企業規模や業種を踏まえ、「取得率の面では統計と遜色ない」という状況になったのであれば、次は取得期間を意識しましょう。

公表義務の拡大に関しては、「見かけの取得率だけを引き上げるのは本質的ではなく、取得期間が十分に確保されているかという質も重要」という指摘があります。この指摘は「手段の目的化」を避けるための、道理にかなった指摘であると思います。今後は、取得率のみならず、取得期間についても、重要な指標とされ、公表義務の対象になっていくのではないでしょうか。取得期間の引き上げも意識して施策を講じたいところです。

前述の調査のなかで、男性の中長期の育休取得を促すプラス要因として、(1)働き方の柔軟性、(2)役割の明確性、(3)目標の明確性、(4)育休取得による査定への影響のなさ、が指摘されています。

(1)については、フレックスタイム制や時差出勤など労働時間面の柔軟性を拡充する施策が考えられます。
また、現行の育児・介護休業法では、労働時間面の柔軟性を確保するための措置は充実していても、勤務地の柔軟性に関する措置は十分とはいえません(事業主への配慮義務があるのみ)。勤務場所の柔軟性も重要な要素となりますので、テレワークの推進や地域限定正社員制度の導入などの施策を進めるのも有益でしょう。

(2)については、人事制度上の等級定義を明確化することが有益です。
企業によっては複数等級にわたり同一の等級定義を設定していたり、そもそも等級定義が不明確であったりします。
思い当たる企業は等級定義の見直しを検討しましょう。

(3)については、休業取得者の目標設定・評価に関する合理的なルールの策定およびルールの周知が必要でしょう。
休業取得者が評価面で不利に扱われないためには、「減縮したインプット(労働時間)の範囲内で期待されるアウトプット=生産性」を達成基準とするべきです。休業期間を考慮せず、アウトプットの総量のみで評価をするルールになっている場合には見直しが必要でしょう。

また、「評価対象期間の過半数を休業すると評価対象外となり、一定の評価とみなして賃金・処遇に反映させる」といったルールを定めている企業も多いかと思いますが、出勤期間が短くても、できるだけ評価を実施し、正当に貢献度を処遇に反映する形が望ましいといえます。

加えて、評価制度の運用スキルの向上が必須でしょう。評価制度はルールを整備しただけでうまく回るものではなく、運用者側のスキルに依存します。評価者研修などを通じて、目標を明確化するためのスキル向上を図りましょう。

(4)については、休業取得によって、昇給、賞与、昇降格へに不利な影響がないかを精査しましょう。
休業取得期間に相応する処遇面でのマイナス(例えば、賞与額が休業期間に応じて按分減額になる)はやむを得ませんが、それを超えて不利益が生じる仕組みになっている場合は見直した方が良いでしょう。

例えば、

  • 一定期間以上休業すると最低評価みなしで賞与額が査定される
  • 一定期間以上休業すると給与改定の対象外とされる

といった仕組みの場合は見直しを検討してみましょう。

上記は人事制度上の施策として考えられることの一部であり、ほかにも男性育休推進のための施策は種々存在します。
男性育休について取得率・取得期間とも胸を張れる企業をめざし、自社に適した施策を講じましょう。