賃上げ率・賃上げ額の定義とは?

2023年度春闘では満額回答が相次ぐなど、主要企業で賃上げラッシュの様相を呈しています。各企業では、人財の確保・定着化の観点から、各種調査で発表される定昇・ベアの賃上げ率・賃上げ額などを参考にしながら自社の賃上げを検討したものと思います。

では、賃上げ率・賃上げ額の定義とは何でしょう? 例えば、「昇格にともなう昇給分」や「昇進にともなう昇給分」も賃上げ率・賃上げ額を算出する際の計算対象に含まれるのでしょうか?

答えは「わからない」です。どこまでの賃金を賃上げ率・賃上げ額の計算基礎に含めるかについては、決まったルールがあるわけではありません。そのため、アンケートの種類によって賃上げの定義が異なったり、定義が曖昧だったりすることもあります。

例えば、連合の「2023春季生活闘争 第4回回答集計結果」(2023年4月13日発表)で、賃上げ率は3.69%、賃上げ額は11,022円と発表されましたが、ここでいう賃上げに「昇格にともなう昇給分」や「昇進にともなう昇給分」が含まれているのか否かはわかりません。連合が発表しているのは「各企業の使用者と労働組合間で交渉・妥結した賃金引上げ率・引き上げ額の平均」ですが、昇格分や昇進分も含めて賃上げの交渉対象とするのか(=賃上げ交渉の対象とする賃金の範囲)は各企業の労使の判断に委ねているためです。

一方で、賃上げの定義がある程度明確になっているアンケート調査もあります。例えば、あるアンケート調査結果(2023年2月発表)によると、2023年度の東証プライム上場企業クラスの一般的な水準目安として、

  • 賃上げ予想率 2.75%
  • 賃上げ予想額 8,590円
  • 定期昇給のみの賃上げ予想率 1.80%
  • 定期昇給のみの賃上げ予想額 5,650円

となっており、同調査では、「昇格にともなう昇給分」は集計対象から除かれています。

ただ、昇格者の数は各社の人事制度によって異なり、仮に社員数が同じ会社であっても、等級が20段階あるA社と、4段階しかないB社では、毎年の昇格者数も、「昇格にともなう昇給分」に配分する原資も当然に違ってくるものと思います。A社が「社員の賃金の引上げは活発な昇格運用を通じて実施しており、等級に変更がない社員の昇給率は抑えている」というのであれば、「昇格にともなう昇給分」を除いて自社の賃上げ率・賃上げ額を算出した場合、同調査結果を下回る水準になることもあるでしょう。しかし、「昇格にともなう昇給分」まで含めた全社員の平均で見た場合は十分な昇給を実現できているということであれば、A社は同調査結果との比較を過度に気にする必要はないのかもしれません。

このように、必ずしも自社と同じ条件で比較したものとはいえない以上、賃上げ調査結果について「各種調査が発表している賃上げ率や賃上げ額と同じ数値をめざそう」とこだわる必要はないように思います。

もっとも、同一の調査結果を2カ年比較で見ればトレンドを把握することは可能です。例えば、前述の「あるアンケート調査結果」の2022年度の調査結果では

  • 賃上げ予想率 2.00%
  • 賃上げ予想額 6,277円
  • 定期昇給のみの賃上げ予想率 1.80%
  • 定期昇給のみの賃上げ予想額 5,650円

となっています。

定昇部分の数字は2年連続で変わっていないのに対して、2023年度の賃上げ予想率・賃上げ予想額は前年度比で上がっているため、ベア分が純増したということになります。「主要企業は、定昇分は前年度並みにしつつ、ベアに力を入れてくるようだ」という情報が読み取れます。

各種賃上げ統計に関しては、こうした「トレンドを把握する」程度の活用が適切でしょう。