職種別の賃金相場を調べるサービス「報酬サーベイ」の利用が増えているようです。その背景には、デジタルトランスフォーメーションを推進するためのデジタル人財の獲得など、専門性の高い人財の採用競争があります。市場価格にふさわしい報酬水準を提示することで自社の採用競争力を高めることが狙いです。
自社の採用競争力を高めるために労働市場における賃金水準を考えることは重要ですが、市場価値と連動した報酬を検討する場合には以下の点に留意する必要があります。
1点目は、月例給、賞与さらには退職金も含めた生涯年収など、どのレベルで報酬水準を合わせるかという点です。
採用時の競争力を維持するという目的から、入社時の固定給水準に目がとらわれがちですが、報酬には業績に応じた賞与といった短期的なインセンティブから、入社後の活躍に応じた給与アップという中期的なインセンティブ、長期的な会社への貢献に報いる退職金まで、さまざまな時間軸での報酬が考えられます。したがって、採用時の固定給だけでなく、その後の報酬がどうなるかを示すことが重要となります。また、企業側としても社内に存在しない専門人財を獲得するわけですから、入社時にその専門性を見極めることは困難です。入社後の貢献度に応じて、どの段階で、どのレベルで市場価値に合わせた報酬水準とするか、あるいはそれ以上の水準を獲得できようになるかを考え、提示する必要があります。
2点目は、高度人財にふさわしい仕事やポストを用意することです。
採用しても、その専門性を使いきれないという状況にならないよう、採用後の役割・職務を明確化しておくことが重要です。高度人財が求めるのは、自らの高いスキルを活かした仕事です。賃金水準だけが企業を選定する理由であれば、それ以上の条件を提示してくれる他社への転職というリスクがつねに付きまといます。自社の経営ビジョン・ミッションをわかりやすく伝え、「そのなかでどんな挑戦や活躍を期待するのか?」「その先にはどんなキャリアアップがあるのか?」をしっかりと説明することが重要です。
人財は採用して終わりではなく、その後の活用、評価、処遇、育成そして定着化というプロセスがあります。入口だけでなく、その後のプロセスを意識することが大切です。
また、企業が高度人財を時価で採用する背景には、年功的な人事制度からジョブ型人事制度への変革という大きな流れがあります。これら給与体系の明確化に併せてジョブ型人事制度へ移行を検討することをお勧めします。