お客様から来春の給与改定に関する相談を受ける時期になりました。
今回は、給与改定(定昇率)、インフレ手当、賃金水準向上の3点について、従業員にわかりやすく整理して伝える必要があります。順番に現状を整理します。
2022年度の給与改定率(定昇率)は、経団連資料によれば大企業、中小企業の平均で2.20%でした。2023年度の春闘の連合の要求は、定昇率2%、ベア3%の計5%で、経団連の「足元の物価上昇を見れば驚きはないが、高めのボールではある」というコメント、および岸田首相の「物価上昇をとくに重視すべき要素として掲げ、これに負けない対応を労使の皆さんには強くお願いする」というコメントから、合計としては5%前後になると考えられます。ただし、定昇率と物価上昇にともなうベアは、連合を除いては明確に区別されていないように思えることから、定昇率だけを捉えれば2%強と受け取ることができます。
次にインフレ手当ですが、インフレ手当は物価高のなかで従業員の生活を下支えすることが目的です。ではどれくらい物価が上昇しているかを見てみると、11月18日に発表された総務省 2020年基準 消費者物価指数によると、総合指数は2020年を100として103.7、つまり3.7%の上昇ということになり、定昇率を上回っています。民間調査によれば、インフレ手当をすでに支給した企業は6.6%、予定・検討中が19.8%でした。支給方法(複数回答)は、一時金が66.6%、月額手当が36.2%でした。物価は、混迷する現在の状況のなかで今後どうなるかの予測が難しいでしょう。物価が下がれば、インフレ手当を下げる、または支給を停止するということも十分に考えられます。したがって、手当として別に設定することが妥当と考えます。
最後に賃金水準向上ですが、これはいわゆる日本の賃金が世界と比較して低い、上昇していないことに対する是正の部分となります。人手不足のために、給与水準を引き上げて採用に資するという側面もあります。
従業員は、当然のことながら、給与が上がれば喜び、上がり方が小さい(上がらない)ことに対しては不満を持つことが多いものです。そのなかで、いくら上がったかが最大の関心事です。ただし、来春の“上がり方”には、これまで述べたようにいくつもの手法があることから、その内訳をきちんと区別して伝える必要があるでしょう。給与改定(定昇率)は何%、インフレ手当は別途いくら、賃金水準向上分は何%と区別して従業員に伝えることが望ましいと考えます。
加えて、長く続いた年功序列賃金の影響で、毎年給与は上がるものという意識がまだまだ強いのですが、役割等級制度やジョブ型人事制度への移行を受けて、「これからは役割やジョブのランクが上がらなければ給与が上がらない時代が来ようとしている」ということをそろそろ従業員に知らせていく時を迎えつつあると考えます。経営陣と人事主管部門の対応とメッセージが、従業員の意識改革を左右すると考えます。