労働時間制度の採否は費用対効果で考えよう

労働時間制度には、原則的なルールのほかに、変形労働時間制やフレックスタイム制、みなし労働時間制、振替出勤・振替休日など、適切に使用すれば割増賃金の削減に資する仕組みがあります。
変形労働時間制や振替出勤・振替休日の仕組みについては、採用している会社も多いのではないでしょうか。
ただ、こうした仕組みの要件・効果を正しく理解したうえで適切に運用している会社は実は多くないと感じています。

例えば、振替出勤・振替休日について、皆さんは正しく理解・運用されていますでしょうか。

振替出勤・振替休日の経営側の主なメリットは、元々法定休日であった日を所定労働日と入れ替えることで「法定休日労働の割増率(35%)を回避する」という点にあります。
ただし、振替出勤・振替休日により「休日労働」の規制を回避できるとしても、「時間外労働」の規制は適用されます。
そのため、週をまたぐ振替のケースでは、多くの場合、振替出勤日に対して、週40時間超過として時間外の割増率(25%)が適用されます。
以上より、週をまたぐ振替が常態となっている会社の場合、振替出勤・振替休日のメリットは、「振替出勤日の労働時間時給単価10%(法定休日の割増率35%と時間外の割増率25%の差分)」を削減できるというものになります。

それでは、このメリットを享受するためにはどのような条件が必要でしょうか。

まずは、使用する労働時間制度に対する正確な知識が必要です。

  • 「振替出勤・振替休日」の要件・効果
  • 「振替出勤・振替休日」と「休日出勤・代休」の違い
  • 「法定休日」と「法定外休日」の違い

などを、少なくとも人事部(制度導入・運用の主管組織)が正確に理解していることが必要です。

また、振替出勤・振替休日を適切に運用するための勤怠システムの設定や、従業員へのルール周知も必要でしょう。

もし、中途半端な知識やルールで運用しているのであれば、メリットどころか、かえって未払賃金の発生という労務リスクが生じることになってしまいます。
例えば、

  • そもそも振替出勤・振替休日の要件(「振替を事前にすること」など)を欠いているにもかかわらず、振替出勤日として扱い、法定休日の割増率(35%)で支払っていない。
  • 週をまたぐ振替であり、本来であれば、振替出勤日に対して週40時間超過として時間外の割増部分(25%)の支払いが必要となるケースであるにもかかわらず、支払っていない。
  • 振替出勤日の賃金(100%+週40時間超過の25%)に関して、100%部分は後日の振休消化時に相殺する前提のため支払っておらず、割増部分(25%)の賃金のみを支払っているが、月またぎの未消化振休が溜まっている。

などは、いずれも未払賃金として扱われます。

このように、労働時間制度については、詳細を理解しないまま「残業代の抑制に効果的らしい」という理由で導入し、適切に運用できずに労務リスクとなっているケースがしばしば見受けられます。
こうした会社に対しては、「使い方がわからない道具を使うのはやめて、シンプルな管理にする」ことをお勧めしています。

例えば、振替出勤・振替休日の仕組みを取りやめて、

  • 休日出勤日については、法定休日出勤・法定外休日出勤いずれについても100%部分を支払う(後日、代休取得時に控除するとしても、いったんは支払う)。
  • 法定休日出勤に対しては、割増部分(35%)を支払う。
  • 法定外休日出勤に対して、時間外労働となる部分については、割増部分を支払う(25%)。
  • 代休取得時には100%部分を控除する。

という運用にすれば、シンプルであり、未払賃金のリスクも生じません。

メリットを享受するために必要な知識や下準備、さらには適切に運用できなかった場合のリスクも考えると、「振替出勤・振替休日の仕組みは、当社では費用対効果が見合っていない。多少割増賃金が増えるとしてもシンプルな運用の方が良い」と思われた方もいるのではないでしょうか。
労働時間制度の採否においては、こうした費用対効果の切り口で検証してみることをお勧めします。