ESG経営に向け評価制度は機能しますか?

  • 役員報酬にESG関連の指標を連動させる動きが日本にも広がってきました。「東証株価指数(TOPIX)100」を構成する3月期決算の日本企業の2割超で、役員報酬に反映する評価項目にESG関連の指標を取り入れていることがわかりました。欧米では5割以上の企業で短期・中期報酬に反映しているというデータもあり、日本はまだ遅れをとっている状況ですが、投資家のESGに関する視線は厳しく、中長期的に企業価値を高める施策として、ESGに対する取り組み結果の役員報酬への反映は今後もさらに拡大していくものと思われます。
  • ESG評価指標と報酬制度を連動させることについて考察していきます。
  • 現在、役員報酬に連動している指標は、従業員満足度やCO2削減率など、いわゆるKGI(=Key Goal Indicator)と呼ばれる最終的な結果指標が中心となります。実際にKGIを改善するために具体的な施策を展開していくためには、その実現に向けたプロセス指標であるKPI(=Key Performance Indicator)を明らかにして、社員それぞれの役割に応じた目標として展開することが必要となります。
  • 従業員満足度であれば、満足度を因数分解した従業員定着率、育児休暇取得率、リモートワークの実施率などのKPIを設定したうえで、定期的なエンゲージメント調査などを行い、それぞれのKPIを改善する課題を明確に設定し、具体的な改善・解決を行うことで、KGIとしての従業員満足度が実態を伴って改善していくでしょう。
  • 現在はまだ、ESGへの取り組みについては、投資家に情報開示するためのKGIを設定し、役員報酬に反映している段階ですが、今後ESG経営を定着化させていくためにはKPIや、その改善向けた取り組みを社内に展開していく必要があります。
  • こうした会社の重点戦略を全社に展開していくうえで、評価制度は強力な武器となります。役員のKGIに連動して、各部門がKGIに連動したKPIを部門目標として設定し、KPI改善に向けた実際の現場での取り組みが、社員一人ひとりの役割に応じて目標に落とし込まれることで、会社がめざすESG経営の姿を浸透させつつKGIが改善していく好循環が生まれます。また、役員のみならず、それぞれの結果を社員の評価結果として報酬に反映させることで、ESGに向けた取り組みを動機付け、社内に定着させることもできます。
  • ESGという全社的・中期的な取り組みがそれぞれの企業に求められる今、経営戦略と人事戦略を連携させる仕組みとして、現在の評価制度が機能しているのか、改めて考えてみることをお勧めします。