AIは人事評価の救世主?~公平性・透明性向上の可能性と課題~

AI技術の進化にともない、年々企業の人事評価にAIを活用する取り組みが注目されています。現状の人事評価は、大手人材紹介会社が実施した調査によると、約6割の従業員が「公平性や透明性が欠けている」「処遇に反映されにくい」などの理由から不満を抱いているようです。
AIの活用によってこの不満は解消できるのでしょうか?

AI活用の最大のメリットは、従業員の業績データや行動パターン、職場での貢献度など、多岐にわたる情報を迅速に処理し、評価の効率化を図れる点にあります。さらに、AIは評価者の主観やバイアスを排除し、一定の基準に基づいた客観的な評価が可能です。これにより、公平な評価が行われ、不公平さが解消されることが期待されます。

一方、AIの活用には「評価内容やプロセスの不透明性」という課題があります。日経新聞において、大手IT企業のAI査定システムについて労働組合が「評価プロセスが不透明で納得できない」と指摘した事例が報じられました。このケースは、AIによる評価基準やアルゴリズムを労使双方が納得できる形で開示し、定期的に見直す仕組みの重要性を浮き彫りにしています。評価がブラックボックス化すると、従業員が自身の評価に納得することは難しくなり、評価への信頼が損なわれかねません。
さらに、AI評価の公平性を保つためには、AIが使用するデータの質やアルゴリズムの管理が不可欠です。AIは過去のデータからパターンを学習しますが、そのデータに偏りがあると、評価結果にも同じ偏りが反映されるリスクがあります。例えば、過去の評価データに男女や年齢によるバイアスが含まれていれば、AIがそれを学習し、評価に不公平が生じるおそれがあります。そのため、企業はAIに入力するデータを精査し、不必要な属性情報を取り除くなど、慎重なデータ管理が求められます。

AIを人事評価に活用するためには、評価基準の透明性とフィードバック体制の整備も欠かせません。AIによって評価プロセスは効率化しますが、従業員が自分の評価内容を理解し、適切なフィードバックを受ける機会がなければ、評価への納得感は向上しません。また、AI活用の有無にかかわらず、評価プロセスを明瞭にすることは、納得感を高める鍵となります。人事評価の目的は、従業員の成長とキャリア開発を支援することです。そのため、AIを導入するにあたっては評価基準を明示し、従業員の成長を支援するプロセスを整えることが求められます。

AIと人間の役割分担を明確にし、相互補完しながら運用することで、より公正かつ透明な人事評価が実現し、納得感を高められるでしょう。またAIの活用にかかわらず、評価プロセスを明瞭にすること自体で納得感を高められます。そうしたなかで、まず大切なのはAIの活用の有無にかかわらず、人事評価が本来の目的である従業員の成長とキャリア開発を果たせているか否かだと思います。現状の人事評価が従業員の成長とキャリア開発につながっているかを再確認してみてはいかがでしょうか。