離職防止のためにも、「つながらない権利」への組織的対応を

勤務時間外に仕事上のメールや電話などへの対応を拒否できる権利のことを「つながらない権利」といいます。
テレワークが普及したことで柔軟な働き方ができるようになった反面、仕事とプライベートの線引きが難しくなり、長時間労働になったり、仕事から完全に離れることができなくなったりすることでストレスが高まる人も増えています。
こうした背景を受けて、欧州を中心に「つながらない権利」を法制化する動きが広がっています。

日本では法制化までは進んでいませんが、社用携帯やチャットツールの導入が広がり、曜日や時間に関係なく業務連絡が取れるようになるにつれ、心身の負荷軽減のための「つながらない権利」を求める声は高まっています。
また企業にとっては、就業時間外の連絡・対応は労務管理上のリスクになるだけではなく、社員の離職増加にもつながりかねません。

対策として、夜〇時~朝〇時までは原則として連絡禁止など、ルール化している企業も多いのではないでしょうか。さらに一歩進んで、休暇中の社内メールを受信拒否・自動削除するシステムを導入した企業もあります。

しかし、社内に向けて、「時間外や休日に連絡するのは控えましょう」と呼び掛けたり、ルールやシステムを導入したりするだけでは、問題は解決しません。
調査によると、就業時間外の連絡が多い業種の1位は建設業でした。土日に稼働することが多く、代わりに平日が休みになるため、休日でも顧客や取引先から連絡が入ることが多くなるようです。
つまり、社員のプライベート時間を守るためには、社外に向けた対策も必要ということです。

ここに踏み込んで対策を講じている企業では、社長名で取引先企業に通知を出し、休日や平日〇時以降は連絡・対応できないことを説明して理解を得たり、すべての顧客、業務を複数担当制に変更し、休暇中の社員の携帯にかかってきた電話は会社(部署)に転送されるようにしたりするといった企業も出てきています。

曜日や時間に関係なく仕事の連絡・対応に追われることの背景には、メールやチャットツール、社用携帯などの普及という側面に加えて、仕事が属人化しがちな体制や、時間に関係なく対応しなければならないという風潮など脈々と続いてきた組織風土の側面もあるでしょう。表面的な声掛けだけではなく、組織体制や風土改革まで踏み込まなければ、なかなか変わっていきません。
労務管理上のリスク軽減はもちろんのこと、社員のモチベーション維持や離職防止の観点からも、個人への声掛けにとどまらない、一歩踏み込んだ組織的な取り組みが求められます。