賃金テーブルは社員への公開が必要

人事制度改定プロジェクトにおいて、賃金制度の見直しを図る際には新賃金テーブルの設計を行うことになりますが、それまで賃金テーブルを社員に公開してこなかったお客様から「賃金テーブルを公開する必要があるのか?」というご質問をいただくことがあります。

公開に後ろ向きな理由を伺うと、

  1. 社員同士での比較が容易になり、同僚との給与差が明確になることで不満が生じる可能性を危惧している
  2. 賃金に関するルールをブラックボックス化することで、柔軟な経営判断の余地を残しておきたい

といったご意見が出ます。

しかし、賃金テーブルは社員に公開すべきです。

(1)に関しては、社員の仕事と等級・賃金が見合っていない時に生じる不満です。
「同じような仕事をしている社員間で、等級・賃金が大きく異なる」といった状況があれば不満を惹起するでしょうが、各社員が、それぞれの担っている仕事や役割の大きさに見合った等級・賃金に位置付けられていれば問題ないはずです。
そのため、「賃金テーブルを非公開にすること」ではなく、「仕事と等級・賃金が見合う仕組みおよび運用にすること=賃金テーブルを自信を持って社員に公開できる状態にすること」が本当の解決策です。

また、(2)に関しては、ジョブ型が進展する昨今ではアンマッチな考え方であると感じます。
「右肩上がりの経済で、将来の見通しがつきやすく、年功的な仕組みが機能していた時代」であれば、「会社が雇用と将来を保証するので、ルールはブラックボックス化して会社が好きなようにやらせてもらう」も通ったのでしょうが、状況は大きく変わりました。
「ジョブ(仕事・役割)に応じて等級・賃金を決める」仕組みがメガトレンドとなり、また、「将来の見通しがつきにくいなかでは、社員自身が主体的に将来やキャリアを設計していく」ことが求められています。
こうした環境下では、

  • どのようなジョブ(仕事・役割)を担うと、どの等級になるのか
  • 各等級の賃金はいくらになるのか

を明示しておく必要があります。

加えて、降格・降給を実施する際のリスクヘッジの観点からも、賃金テーブルを就業規則に明記して周知すべきでしょう。
近時の判例でも、就業規則上に給与レンジの額が明記されていないことなどを理由に、降格時の賃金減額を無効としたものがあります(日本ヒューレット・パッカード事件 2023年6月9日東京地裁判決)。
ジョブ型が進展する状況下では、降格・降給を実施する場面もこれまでより増えてくるものと思います。労務リスクヘッジの観点からも賃金テーブルは就業規則に明記すべきと考えます。

就業規則上、「基本給は等級別の基本給テーブルに基づいて決定する」といった淡泊な記載で済ませている会社もまだ多いと思います。
具体的な金額も入れた賃金テーブルを就業規則に明記しましょう。