休暇恐怖症 ~100人100通りの働き方に向けて~

「休暇恐怖症」という言葉をご存じでしょうか。
日本のビジネスパーソンが休暇を取得する際に罪悪感や不安を抱く現象を「休暇恐怖症」と呼んでいます。そのため多くの企業が働き方改革への取り組みを進めているにもかかわらず、有給休暇の取得率が上がらないといわれています。
では本当に有給休暇の取得率は低いままなのでしょうか。

2019年の労働基準法改正により、有給休暇を年5日取得することが義務化され、有給休暇の取得率は上昇しています(厚生労働省の調査によると2021年:56.6%、2022年:58.3%、2023年:62.1%)。しかし、米旅行予約サイト、エクスペディア社の調べでは、先進国11カ国中最下位の取得率と発表されており、また国内の中途採用サービス運営会社ミイダス(株)の調べでも58%の取得率と発表があり、他国と比べてあまり有給休暇を取得できていない状況です。また、厚生労働省は2025年までに取得率を70%とする目標を掲げていますが、この目標にはほど遠い状況です。
興味深いことに、ミイダスの調べでは半数以上の人が現状の休暇日数よりさらに多くの休暇を取得したい、と考えているようです。このことから、休暇恐怖症を抱え、休暇を取りたいが休暇を取れない人が数多くいるであろうことが想像できます。

祝祭日を含めると、日本のビジネスパーソンは他国と比較して休みが取れているという話がありますが、休暇恐怖症による長時間労働は、鬱病などの精神的な問題を引き起こす可能性もあります。また、生産性の低下につながる可能性もあるほか、離職率の増加にも影響を及ぼしかねません。企業は持続可能な発展をめざすためにも、従業員の持続可能な働き方を考えなければいけません。
では、一体どのようにすれば休暇恐怖症を抱えている人を減らすことができるでしょうか。

ソフト・ハードの両面の人事施策で休暇恐怖症を抱える人を減らすことができるはずです。
ソフトの面では、職場文化を変えることが大事でしょう。最近、グーグル社の発表で注目を集めた「心理的安全性が高い職場」をめざす必要があると思います。休暇恐怖症は単に休みが取れないという問題だけではなく、職場のなかでのコミュニケーションが不足していることも考えられます。定期的な対話の機会をつくることで相談がしやすく、一人ひとりの働き方が尊重され、受け容れられる土壌を醸成する必要があるでしょう。実際、育児や看護、介護などをしなければいけないといったライフステージも一人ひとりで異なるはずです。繁忙期で業務が忙しく「職場に迷惑をかけるかもしれない」「今は休暇申請をしづらい」と、休暇恐怖症を抱えている人が相談しやすいように腹を割って話をできる環境づくりをしなければいけません。
ハードの面では、有給休暇取得の奨励日を設ける、申請のシステムを簡素化する、などの制度の見直しも大事でしょう。同時にソフト面の職場文化を変えるためにも、人事労務制度やダイバーシティ&インクルージョンについての正しい理解を促進する研修機会を設けることも一つの手段として挙げられます(新しく研修を導入しても良いですが、既存の階層別研修のプログラムのなかにミニセッションとして導入しても面白いかもしれません)。

休暇恐怖症と有給休暇の取得率向上について考えてきましたが、大幅に有給休暇の取得率を上昇させることは容易な話ではありません。職場のなかでお互いに支え合う必要があるでしょうし、暗黙知で形成された職場文化や既存の人事制度を変えることは容易ではないはずです。まずは100人には100通りの働き方があることを職場のなかで話し合うところから始めてみませんか。