シニアのリスキリングを考える

先日、株式会社日本経済新聞社が今年から主催する「日経リスキリングアワード2024」が発表されました。大賞は、漆器などの伝統工芸を祖業とする石川樹脂工業株式会社(石川県加賀市・1947年創業)が受賞しました。「中小企業からスタートアップ型企業への変革」「人材の変革を通じた組織の変革」という方針を掲げ、リスキリングを経営戦略の中核に据えて、ロボティクスやAI、デジタルマーケティングなどの先端スキルを活用した事業展開に全社で取り組み、労働生産性の向上や新規事業の育成などの成果につなげていることが評価されました。

株式会社リクルートマネジメントソリューションズが発表したリスキリングに関する調査結果によりますと、「リスキリング」や「学び直し」に期待する企業は8割に上りますが、具体的なメッセージが発信できている企業は4割にとどまります。

調査の結果、今後注力すべき重点施策に位置付けられたのは、シニアのキャリアチェンジや学び直しでした。
調査対象企業の約7割がシニアの学び直し施策の実施を検討中と回答した一方で、実際に取り組めている企業は少なく、施策を実施中の企業でも具体的な成果を上げていると回答した企業は3割に満たない結果となっています。

シニアのリスキリングや学び直しはどのように進めるべきでしょうか?

リスキリングの対象項目は、新たな事業を立ち上げるためのスキルの習得から、DXなど仕事を進めるうえで必要な新たな技術を活用するための知識など、さまざまなものがあります。そこで、まずは今後の経営戦略の実現に向けた取り組みのなかで、シニア人財にどのような役割や成果を求めるのか、そのためにこれまでの経験やキャリアに加え、新たにどのような知識やスキルが求められるのかを明確化する必要があります。
次に、仕事に必要な知識やスキルを学び習得することを「期待する役割」のなかで具体的に求めることが必要です。そして、新たに習得した知識やスキルを仕事のなかで実践した結果を評価し、賃金や処遇に結び付ける仕組みまでを整備することが重要です。

最も大切なのは、学び続ける、教える・教えられる文化を醸成することです。
先ほど紹介した調査結果によりますと、リスキリングや学び直しにおいて多くの企業で課題となっているのは、社員の学ぶ意欲をいかに引き出すかという点です。
そこで当社は、お客様の人事制度の見直しをサポートさせていただく際、「社員に期待する役割」に関する定義を、「業務の遂行」だけでなく「業務遂行に必要な知識・スキルの向上」も盛り込むことを提案しています。
マネージャー、中堅、若手に期待する役割においても、自らの役割を遂行するために必要な能力の継続的な向上を「期待される役割」として明確化することで、若手は仕事を経験し業務範囲を拡大することを、中堅は現場のリーダーとして自らの専門領域をさらに深めることや、メンバーを指導することが目標として設定されやすくなります。社員自らがこうした目標を掲げることで、結果が評価され賃金や処遇に結び付くというサイクルが生まれ、学ぶことや教えることに対するモチベーションを高めることができます。
このことは、シニアにおいても同様だと思います。これまで経験したキャリアや専門性を活かし、どのような活躍が期待されているのかを明確化することで、必要な知識やスキルが明らかになり、それを身に付け実践することが自身の評価、そして賃金・処遇につながることが明らかになれば、リスキリングや学び直しと言わずとも、つねに必要なことを見つけ学び続ける、後輩に伝え、また後輩に学ぶという文化の創造につながるのではないでしょうか。

今回の大賞を受賞した石川樹脂工業では、経営トップがメッセージを発して大きな成果を上げています。人事制度は会社としての方針・メッセージを社員に伝える仕組みでもあります。シニアのリスキリングを進めるうえで、まずはシニアの人事制度から見直しを検討することをお勧めいたします。