最低賃金大幅改定 賃上げ余力に乏しい中小企業が取り得る施策は?

2024年度の最低賃金(時給)について、中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会は50円(5%)引き上げとする目安を決めました。上げ幅は2023年度の43円を上回って過去最大となっています。この最低賃金の大幅改定に頭を抱える中小企業も多いのではないでしょうか。本コラムでは、最低賃金改定にともなう影響と、それに対する中小企業の具体的な対応策について考察します。

まず、最低賃金の大幅な引き上げが生じる場合、最低賃金抵触者だけを対象にした賃上げでは不十分です。この方法では、基本給テーブルのバランスを失する可能性がありますし、先輩社員との給与格差が縮小することで不公平感が生じるおそれもあります。そのため、ベースアップを本線とする賃上げ対応が必要となります。
しかし、全社員を対象としたベースアップとなると賃上げ原資が大きくなります。賃上げ余力は企業規模によって異なり、とくに価格転嫁が進んでいない中小企業は、今回の最低賃金引き上げで苦境に立たされることが考えられます。

賃上げ余力に乏しい中小企業にとって、現実的な対応策として、ベースアップを実施しつつ、年収に占める給与・賞与比率の変更を行う方法があります。具体的には、賞与支給月数を引き下げ、月例給の引き上げ原資を賞与から持ってくる形です。この方法であれば、原資面では変更がないまま最低賃金をクリアし、基本給テーブルの構造も維持することができます。

もちろん、生産性の向上や価格転嫁を通じて社員の年収水準自体を引き上げることが抜本的な解決策です。しかし、これらの施策には時間がかかります。一方、最低賃金の引き上げは法的要請であり、即時の対応が求められます。そのため、生産性の向上や価格転嫁を進めつつ、その効果が現れるまでの時間を稼ぐ方法として、今回紹介した賞与支給月数の調整は有効です。

この方法を取る際には、社員への説明が重要となります。年収自体が変わらないという点は、社員にとってネガティブに映る可能性があるため、「月例給の引き上げによって生活の安定を図る」というメリットを強調する必要があります。また、「生産性の向上や価格転嫁を進め、業績が好調となった際には、賞与水準も従前並みに引き上げていく」という今後の処遇改善に向けた見通しを伝えることも重要です。

価格転嫁が進んでいない中小企業にとって、最低賃金の引き上げは大きな負担となりますが、適切な対応策を講じることで、社員のモチベーションを維持しつつ、法的要請に対応することも可能です。今回紹介した方法を参考にしながら、自社に最適な対応策を検討してみてください。