管理監督者の「実質的な時給」を調べてみよう

近年、管理職を望まない若手社員が増加していることが各種調査で明らかになっています。
管理職になりたくない理由として、「責任が重くなる」「業務量が増え、長時間労働になる」「現在の職務内容で働き続けたい」などが挙げられていますが、「賃金と職責が見合っていない」という理由も各種調査で一定数見られます。
今回は「賃金と職責が見合っていない」=「コスパの悪さ」に着目して、管理職の魅力度を検証する方法を考えてみたいと思います。

「管理職」という言葉に法的定義はありませんが、「管理職=労基法上の管理監督者」と位置付けている企業が多いものと思います。
管理監督者は時間外・休日割増の対象外となるうえ、36協定の制約も外れるため、「管理職は長時間労働になりやすく、しかも、どれだけ残業しても賃金は変わらない」という状態になりがちです。
年収を総労働時間で除した「実質的な時給」で考えた場合、「管理監督者の処遇が不十分、あるいは、非管理監督者よりも下」ということも起こり得ることになり、この場合、コスパの悪さから管理職が敬遠されることになってしまいます。

こうした懸念を踏まえて、賃金制度の設計においては、多くの企業で「額面上、管理監督者の方が非管理監督者よりも賃金が多くなるように」しているものと思いますが、「実質的な時給」まで踏み込んだ検証を行う例は多くないように思います。
しかしながら、

  • コスパ重視の若手が増加していること、
  • いわゆるチェーン店通達において「実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる」とされており、行政としても管理監督者性の判断において「実質的な時給」に言及していること、

などを踏まえると、本来的には「実質的な時給」についても検証を行うべきでしょう。

また、仮に「実質的な時給」において管理監督者の方が非管理監督者よりも上であったとしても、それだけでOKということではなく、管理監督者の職責の重さに応じた妥当な格差もついていなければ、管理職のコスパは改善されません。
そのため、「実質的な時給」について、管理監督者の職責の重さも踏まえた優位性が出るように、管理監督者の賃金が設計されていることが必要になります。

この点の検証をするためには、例えば、以下のアプローチが有効と考えます。

  1. 非管理監督者、管理監督者のそれぞれについて、年収を総労働時間で除した「実質的な時給」を算出する。
  2. 両者の間に職務の重さに応じた妥当な格差がついているかを検証する。その際には、同一労働同一賃金における職務評価の手法を参考にする。

2.の職務評価の手法は、従業員の職務が会社にとってどの程度重要か、専門性は必要かなど社内の職務内容を比較し「職務の大きさ」を相対的に測定する手法であり、厚労省の「多様な働き方の実現応援サイト」にて関連資料を入手できます。この資料自体は、パートタイム・有期雇用の労働者と正社員との均等・均衡待遇を検証するためのものですが、考え方は本件にも流用可能でしょう。
例えば、2.の職務評価の結果、「職務の大きさ」について、「非管理監督者:管理監督者=100:120」であったとして、1.で算出した「実質的な時給」が「非管理監督者:管理監督者=100:105」であったとなると、バランスが取れておらず、管理監督者の賃金水準に魅力度が欠けるということになります。

管理職を志向する若手が少ないことを課題とお感じの企業は、自社の管理監督者の「実質的な時給」について問題がないかを検証してみましょう。