「子持ち様」論争に対して企業として取り組むべきこと

日本企業において、ダイバーシティ&インクルージョンの重要性は年々高まっています。
多様な背景や価値観を持つ人財がお互いを受け入れ協働する環境は、創造的なアイデアや革新的な解決策を生み出す土壌といえ、人的資本の活用という観点から、企業の競争力を維持・向上させていくために不可欠といえるでしょう。

しかし、育児など私生活で事情を持つ社員に対して、理解や支援を示すことは容易ではないようです。現在SNS上で見られる「子持ち様」という言葉のトレンドは、この課題が表面化している一例です。これは、職場内で対立構造が生じていることの表れであり、これを解消しなければ、組織の士気や生産性の低下を招くおそれがあります。

「子持ち様」問題の一因として、社会環境の変化により子育て世帯が減少し、子育てをする社員としない社員の間の分断が生じたことが指摘されています。
子育てをしない選択をした社員は、子育ての負担や苦労を想像できなかったり、「自分も将来その立場になるかもしれない」という立場の交代可能性を意識することがなかったりするため、子育てをする社員に共感しにくい、というのも理解できます。

ただ、企業としては、この種の対立構造に対しては早々に対策を講じるべきでしょう。
「子持ち様」は育児による働き方の制約にフォーカスした議論ですが、少子高齢化が進む日本では、介護問題も無視できない課題であり、介護による働き方の制約は将来ほとんどの人が直面する可能性があります。その際に、多様性に対する不寛容が解消されておらず「介護様」のような言葉が誕生するようでは、もはや職場は機能しないのではないかと危惧します。

人事・労務面での施策としては、

  • 柔軟な勤務スタイルの提供:テレワークの導入やフレックスタイム制度の拡充により、個々の生活状況に合わせた働き方を可能にする
  • 意識改革プログラムの実施:多様性に対する理解を深めるための研修やワークショップの定期的な開催

などが考えられますが、もっとも導入が簡便でかつ即効性があるのは「子育てをしている社員の業務を引き受ける同僚への評価や賃金面でのプラス」だと考えます。

育児休業を取得した社員の同僚に一時金を支給する企業の実例を報道でご覧になった方もいるかと思いますが、このように子育てをしている社員の同僚に対して直接的な恩恵を提供すること(例えば、プラスの評価や賃金面でのインセンティブ)は、他の施策と比較しても、同僚社員に直接的なメリットをもたらすという点で特異です。社員が子育てをすることで、職場の社員全体に恩恵をもたらすかたちになれば、同僚社員が不公平感を持つことなく、そのモチベーション向上を図ることができ、子育てをする社員も気兼ねなく育児関連制度を利用しやすくなります。

「子持ち様」という言葉の撲滅のため、「子育てをしている社員の同僚に対する評価・賃金面でのプラスの仕組み」を検討してみましょう。