サステナビリティ情報開示:SSBJ基準と補足文書の関係

はじめに

2025年3月27日にサステナビリティ基準審議会(SSBJ)は、我が国のサステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準と表記)の適用にあたっての参考として7つの補足文書を公表しました。

  • 補足文書「IFRS S1号『サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項』に関する付属ガイダンス」
  • 補足文書「IFRS S2号『気候関連開示』に関する付属ガイダンス」
  • 補足文書「教育的資料『気候関連のリスク及び機会の自然及び社会的側面』」
  • 補足文書「教育的資料『IFRS S1号における要求事項を満たすための『SASBスタンダード』の使用』」
  • 補足文書「教育的資料『現在の及び予想される財務的影響』」(パート1/パート2)
  • 補足文書「教育的資料『サステナビリティ関連のリスク及び機会、並びに重要性がある情報の開示』」
  • 補足文書「教育的資料『IFRSサステナビリティ開示基準におけるプロポーショナリティのメカニズム』」

上記の補足文書はSSBJ基準を適用した結果がIFRSサステナビリティ開示基準(以下、ISSB基準と表記)を適用した結果と比較可能なものとなることを目的として公表されており、すでに国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が公表しているISSB基準の「付属ガイダンス及び教育的資料」の和訳を添付する形式を採用しています。これらは企業がSSBJ基準を適用するにあたり生じる疑問の解消に役立ちますが、サステナビリティ開示担当者が補足文書の立ち位置やSSBJ基準との関係を適切に理解しておかなければ正確に利用することはできません。また、補足文書はISSB基準の和訳の形式を採用しているため、これらの文書を参照するにあたっては、文書上のISSB基準の項目番号をSSBJ基準に読み替える必要があります。さらに、各補足文書はSSBJ基準の一部の要求事項に対応しているものであるため、補足文書がSSBJ基準のいずれの項目に対応しているのかを特定できなければ効率的にこれらを参照することもできません。
そこで、今回は、サステナビリティ開示担当者が補足文書を正確かつ効率的に運用できるよう【表1】および【表2】において、「ISSBの基準・付属ガイダンス及び教育的資料とSSBJの基準及び補足文書の対応関係」と「SSBJ基準と補足文書の関係」をまとめます。

ISSBの基準・付属ガイダンス及び教育的資料とSSBJの基準及び補足文書の対応関係

前述のとおり、SSBJの補足文書はISSBの付属ガイダンス及び教育的資料の和訳を添付する形式を採用しているため、IFRS S1、S2を参考としつつも我が国独自の基準として開発されたSSBJ基準とは作成の方針が異なります。つまり、補足文書は実質的にISSBの公表資料をそのまま取り込んだものとなっており、これらの対応関係は【表1】のようになります。

【表1】

ISSB公表資料SSBJ公表資料
基準
IFRS S1 サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項
独自開発
ユニバーサル基準
一般開示基準
IFRS S2 気候関連開示気候関連開示基準
付属ガイダンス
Accompanying Guidance on General Requirements for Disclosure of Sustainability-related Financial Information
和訳
補足文書「IFRS S1号『サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項』に関する付属ガイダンス」
Accompanying Guidance on Climate-related Disclosures補足文書「IFRS S2号『気候関連開示』に関する付属ガイダンス」
教育的資料
Nature and social aspects of climate-related risks and opportunities
和訳
補足文書「教育的資料『気候関連のリスク及び機会の自然及び社会的側面』」
Using the SASB Standards to meet the requirements in IFRS S1補足文書「教育的資料『IFRS S1号における要求事項を満たすための『SASBスタンダード』の使用』」
Current and Anticipated Financial Effects (PART1/PART2)補足文書「教育的資料『現在の及び予想される財務的影響』(パート1/パート2)」
Sustainability-related risks and opportunities and the disclosure of material information補足文書「教育的資料『サステナビリティ関連のリスク及び機会、並びに重要性がある情報の開示』」
Proportionality Mechanisms in IFRS Sustainability Disclosure Standards補足文書「教育的資料『IFRSサステナビリティ開示基準におけるプロポーショナリティのメカニズム』」

SSBJ基準と補足文書の関係

補足文書はSSBJ基準を構成するものではないため、基準適用にあたりこれらに従わなかったとしてもSSBJ基準に準拠していないことにはなりません。故に、実務上は【表2】に記載したSSBJ基準の解釈に困難が生じた場合、必要に応じて対応する補足文書を参照することが想定されます。

【表2】

IFRS S1号『サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項』に関する付属ガイダンス
ユニバーサル基準第29項、第40項、第41項、第43項、第50項~第52項、第54項、第55項、第60項、第81項、BC100項、BC155項
一般開示基準第7項~第39項、BC35項、BC39項、BC49項
気候関連開示基準第88項
IFRS S2号『気候関連開示』に関する付属ガイダンス
ユニバーサル基準第28項、第60項(2)、BC51項、BC52項
気候関連開示基準第16項、第17項、第19項~第29項、第31項~第33項、第38項、第39項、第47項~第49項、第52項~第57項、第61項~第63項、第79項~第84項、第86項、C4項、BC57項、BC62項、BC63項、BC65項、BC66項、BC137項
教育的資料『気候関連のリスク及び機会の自然及び社会的側面』
ユニバーサル基準第13項~第16項、第80項
気候関連開示基準第4項(7)、第16項、第19項(1)、第20項、第28項、第29項、第86項、第92項(1)(2)(5)、BC51項、BC52項、BC57項、BC65項、BC66項
教育的資料『IFRS S1号における要求事項を満たすための『SASBスタンダード』の使用』
ユニバーサル基準第41項、第42項、第52項、第53項、第60項、第61項、BC79項、BC83項、BC84項、BC85項
教育的資料『現在の及び予想される財務的影響』(パート1/パート2)
一般開示基準第16項~第22項、BC39項
気候関連開示基準第21項~第27項、BC62項、BC63項
教育的資料『サステナビリティ関連のリスク及び機会、並びに重要性がある情報の開示』
ユニバーサル基準第4項(3)(6)(7)、第7項、第8項、第11項~第16項、第21項、第22項、第28項~第30項、第33項、第34項、第38項~第41項、第43項、第44項、第47項、第50項~第52項、第54項、第55項、第57項~第60項、第63項、第64項(2)(3)(4)、第65項、第66項、A17項、A28項、BC51項、BC52項、BC66項、BC67項、BC70項、BC72項、BC106項、BC107項、BC110項~BC113項、BC121項、BC122項
一般開示基準第17項(1)、第33項、BC33項
気候関連開示基準第4項(2)(3)、第41項(1)②、BC52項
教育的資料『IFRSサステナビリティ開示基準におけるプロポーショナリティのメカニズム』
ユニバーサル基準第33項、第38項、第39項、第47項、BC66項、BC67項
一般開示基準第19項、第21項、第22項
気候関連開示基準第18項、第24項、第26項、第27項、第33項、第36項、第69項、第78項~第81項、A3項、A4項、A6項~A9項

※上表の「ユニバーサル基準」は「サステナビリティ開示基準の適用」を指しています。

おわりに

2025年3月5日に公表されたSSBJ基準に上記の補足文書を併せると基準適用の際に従う、または、参照する文書の数は10となりました。ISSBが生物多様性や人的資本にかかるリサーチ・プロジェクトを進めていることを考慮すると、将来的にはSSBJ基準や補足文書もさらに増えることが見込まれます。したがって、SSBJ基準の適用を控えている企業(※1)はISSBやSSBJの動向を適時かつ網羅的に把握することが必要となりますが、サステナビリティ開示を取り巻く環境には変化が大きく、企業が日常業務と並行して情報のアップデートを行うことは困難な場合もあります。
この点、BBSにはサステナビリティ開示分析のプロジェクトを経験した公認会計士やプライム上場企業として培った有価証券報告書(「サステナビリティに関する考え方及び取組」)の作成に対するナレッジがあります。サステナビリティ開示担当者への研修や企業向けのサステナビリティ開示の勉強会など関連知識のアップデートにかかる細かなご相談も承りますので、遠慮なくご相談ください。

※1(参考)SSBJ基準の対応が必要と見込まれる企業については以下のコラムをご参照ください。
サステナビリティ情報開示:温室効果ガス排出量の測定の基礎データを特定する際の留意点

※当コラムの内容は私見であり、BBSの公式見解ではありません。