新リース会計基準を適用するうえでの実務構築上の留意点:リース契約における債務管理

2024年9月に新リース会計基準が公表され、3月決算の会社では2027年4月から強制適用されます。これにともない、これまでオペレーティング・リースとして賃貸借処理していたリース取引や不動産賃貸借契約などは、原則として資産(使用権資産)と負債(リース負債)を計上する必要があります。金額の算定には複雑な割引計算が求められるため、従来はスプレッドシートでリース契約などを管理していた会社でも、新たにリース資産管理システムの導入を検討するケースが増えています。
こうしたなかで、新リース会計基準適用後のリース契約に関する債務管理を、リース資産管理システムにより算定された「リース負債」をもとに行いたいというニーズを耳にすることも増えてきました。しかしながら、「リース負債」をもとに債務管理を行うためには、現場部門も含めて新リース会計基準を正しく理解する必要があります。これは難易度が非常に高く、個人的にはお勧めできません。「リース負債」の管理と債務管理はそれぞれ分けて行うべきと考えます。
そこで今回は、「『リース負債』をもとに債務管理を行う場合の実務構築上の懸念点」を整理するとともに、「『リース負債』の管理と債務管理を分けて実務構築を行う際の考え方」を解説します。

1.「リース負債」をもとに債務管理を行う場合の実務構築上の懸念点

(1)現場部門が請求書などを見て「会計上のリース」に関連する請求か否かを判断することは難しい

「リース負債」をもとに債務管理を行うには、取引先からの請求のうちリースに関連する請求のみを漏れなく集める必要があります。
この点、現行のリース会計基準では、一般的にファイナンス・リースとして資産・負債計上が求められるケースの多くがリース会社との契約であるため、リース会社からの請求情報を集めれば何とか対応が可能な状況です。
しかしながら、新リース会計基準では、リース会社との契約だけではなく、オフィス、店舗、倉庫などの不動産賃貸借契約や、一部のサーバー契約、業務委託契約、サービス利用契約など、一見するとリースではなさそうな多種多様な契約が「会計上のリース」に該当する可能性があります。法形式や契約書に「リース」と書かれているかどうかは関係がないのです。これらの契約は請求書などに「リース」であることが明示されていないため、支払申請を行う現場部門が新リース会計基準を正しく理解して、リースに関連する請求かどうかを判断する必要がありますが、これは非常に難易度の高い作業といわざるを得ません。無理に現場に判断させようとすると「会計上のリース」に該当する請求情報の一部が集計から漏れる、もしくは、「会計上のリース」に該当しない請求情報を誤って集計してしまう可能性があります。

(2)現場部門が「リース負債」と実際の債務(支払額)の違いを理解したうえで業務運用することは難しい

「リース負債」(支払利息を含む)はあくまでも会計上の考え方であるため、実際の債務(支払額)とは異なる概念です。主に、以下の4つに該当する場合、両者の金額は一致しません。

「リース負債」(支払利息を含む)と実際の債務(支払額)が一致しない4つの要因
  • 支払金額のうち「リースを構成しない部分」の金額
    会計基準上、支払金額のうち「リースを構成しない部分」に該当する金額は、原則として「リース負債」の算定に含まれません。
  • 例えば、不動産賃貸借契約における共益費、管理費などが該当します。これらは「リース負債」に含まれません。少額リース
    一定の金額以下のリース契約は、会計上の簡便処理として資産・負債計上しないことが認められています。
    例えば、支払総額が300万円未満の車両契約など少額リースの場合、「リース負債」は計上しません。
  • 短期リース
    借手のリース期間が12カ月以内のリース契約を「短期リース」といい、会計上の簡便処理として資産・負債計上しないことが認められています。
    例えば、リース期間が半年の契約は、「リース負債」は計上しません。
  • 指数レートまたはレートに応じて決まらない変動リース料
    支払金額が変動するリース料のなかには、資産・負債として計上しないものがあります。
    例えば、複合機のリースで、固定リース料とは別に印刷枚数に応じて追加の支払いが発生する契約の場合、この追加部分の金額は「使用状況に応じた変動リース料」に該当するため、「リース負債」には含まれません。

上記はあくまで会計基準上の考え方に過ぎません。したがって、取引先とやり取りする請求書などには当然「リースを構成しない部分」や「変動リース料」といったの金額の内訳が書かれているわけではありませんし、少額リースや短期リースに該当するかどうかが書かれているわけでもありません。そのため、支払申請を行う現場部門は、新リース会計基準に基づき「リース負債」に該当する部分とそれ以外の金額を分ける必要がありますが、(1)で説明したとおり、非常に難易度が高い作業といわざるを得ません。無理に現場に判断させようとすると、「リース負債」に該当する部分とそれ以外の部分が適切に区分されず、結果として「リース負債」と支払金額の消込みがうまく行えないことになりかねません。

2.「リース負債」の管理と債務管理を分けて実務構築を行う際の考え方

「1.『リース負債』をもとに債務管理を行う場合の実務構築上の懸念点」で述べたように、「リース負債」をもとに債務管理を行う場合、現場部門が新リース会計基準を正しく理解していることを前提に判断を求めることになります。新リース会計基準は新収益認識基準と同様にIFRSをベースにした会計基準といわれており、抽象的かつ難解な内容です。経理部門でさえ理解が難しい基準です。それを支払申請を行う現場部門のすべての担当者が理解したうえで支払申請や債務管理を正確に行うことは難しいでしょう。
よって、現場部門が「会計上のリース」を意識せずにすみ、他の原価や販管費と同様の手順で債務管理を行える仕組みを整えることが重要です。例えば、契約管理・物件管理・リース関連の仕訳作成などはリース資産管理システムで行い、リース料の支払いや債務管理自体は他の原価や販管費と同様に支払管理システムで対応する方法が考えられます。現場部門の債務管理業務は、最小限の変更にとどめるのがポイントです。
具体的な会計処理の手順は、以下のとおりです。まず、リース料が請求されたタイミングでは、他の原価や販管費と同様にリース資産管理システムは使わず、支払管理システムを用いて支払賃借料といった仮勘定を立てます(下表、実務仕訳イメージ【1】)。その後、月末などにリース資産管理システムで算定したリース負債の減少額と支払利息の合計額分を相殺します(下表、実務仕訳イメージ【2】)。相殺した結果、借方に一定金額の支払賃借料(仮勘定)が残りますが、通常の債務管理が問題なく運用されていれば、それらは「1-(2)」で述べた4つの要因による費用計上額に該当しますので、開示上、支払リース料などの科目に振り替えれば正しい財務数値となります。

【リース料の支払いや債務管理自体は支払管理システムで対応する実務仕訳のイメージ】
実務仕訳例関連するシステム例
取り引き借方貸方 支払管理リース
資産管理
会計
契約締結時 - - - -
リース開始時 使用権資産 xxx リース負債 xxx
請求時
【1】
支払賃借料
(仮勘定)
xxx 未払金 xxx
リース料支払時 未払金 xxx 現金預金 xxx
(月次)決算時
【2】
リース負債 xxx 支払賃借料
(仮勘定)
xxx
支払利息 xxx
減価償却費 xxx 減価償却累計額 xxx

3.おわりに

新リース会計基準への対応は、単に会計方針を決定し、システムを導入すれば完了するものではありません。実務の現場で無理なく運用できる業務プロセスを構築し、現場部門の負担を最小限に抑えることが重要です。
強制適用まで残り約2年となりました。余裕を持って対応を進めるためにも、早い段階で課題を洗い出し、計画的に準備を進めていくことが大切です。慌てることなく、今から取り組んでいきましょう。

※当コラムの内容は私見であり、BBSの公式見解ではありません。