炭素税とサステナビリティ開示

2024年9月、自民党総裁選に先立って行われた候補者による討論会のなかで、「炭素税」の話題が挙がりました。この炭素税について、一見、企業のサステナビリティ開示のうち、気候変動課題に関連しそうにも思えますが、どのように考えるべきでしょうか。本コラムでは、炭素税についてサステナビリティ開示との関係性について解説します。

まず、2024年3月29日、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、サステナビリティ開示基準として、以下の3件の公開草案を公表しています。

  • サステナビリティ開示ユニバーサル基準公開草案「サステナビリティ開示基準の適用(案)」
  • サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第1号「一般開示基準(案)」
  • サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第2号「気候関連開示基準(案)」

これらの公開草案において、「炭素税」自体は、直接の開示項目にはなっていません。しかし、任意開示の枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に従った統合報告書などにおけるこれまでの開示例を踏まえると、炭素税は気候変動に関するリスクに該当する場合があるため、開示が必要となる可能性があります。
「気候変動に関するリスク」はいくつかの種類から構成されています。主に、(1)物理的リスクと、(2)移行リスクに分類されますが、以下のように、さらに複数の種類から構成されると解説されています。

種類定義種類主な側面・切り口の例
(1)物理的リスク 気候変動による「物理的」変化に関するリスク 急性的なリスク サイクロン・洪水のような異常気象の深刻化・増加
慢性的なリスク 降雨や気象パターンの変化、平均気温の上昇、海面上昇
(2)移行リスク 低炭素経済への「移行」に関するリスク 政策・法規制リスク GHG排出に関する規制の強化、情報開示義務の拡大等
技術的リスク 既存製品の低炭素技術への入れ替え、新規技術への投資失敗等
市場リスク 消費者行動の変化、市場シグナルの不透明化、原材料コストの上昇
レピュテーションリスク 消費者選好の変化、業種への非難、ステークホルダーからの懸念の増加
  • (環境省Webサイトから抜粋)

上記表にある「(2)移行リスク」のうち「政策・法規制リスク」の1ケースとして、炭素税の導入が該当するという統合報告書などでの開示例が現在でも多数あります。 日本では、2016年に炭素税に近い制度として「地球温暖化対策のための税」がCO2排出量1トン当たり289円課されていますが、世界各国で広く導入されている「炭素税」の制度と比べると低い水準といわれています。このため、将来のシナリオ分析をした結果、炭素税が国際標準レベルに引き上げられるリスクがあり、かつ自社の将来の財務的影響額が大きいと想定される企業については、現在でも開示を行っていると分析されます。

今後、「気候関連開示基準(案)」が確定・適用されると、気候変動に関するリスクおよび機会の「予想される財務的影響」が生じる場合には、これを開示しなければならない(気候関連開示基準(案)第21項(2))と定められていますので、注意が必要です。
今回、炭素税が話題になり、制度導入の政策的な機運が高まったともいえますので、炭素税に関するリスクが該当するか否かを検討するきっかけとするのが良いのではないでしょうか。