サステナビリティ情報収集の第一歩

2024年3月29日、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、サステナビリティ開示基準として、以下の3件の公開草案を公表しました。

  • サステナビリティ開示ユニバーサル基準公開草案「サステナビリティ開示基準の適用(案)」
  • サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第1号「一般開示基準(案)」
  • サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第2号「気候関連開示基準(案)」

いずれも強制適用の時期は明確になっていませんが、プライム市場に上場する時価総額の高い企業から段階的に適用するスケジュール案が協議されています。
この強制適用スケジュール案の公表により、サステナビリティ開示の推進スケジュールに余裕ができたとお考えのご担当者様もいらっしゃるのではないでしょうか。本コラムでは、以下の観点から、サステナビリティ開示基準が強制適用される前の期間であってもサステナビリティ開示の充実に取り掛かる必要があるケースを紹介します。

(1)有価証券報告書開示2年目以降の改善

金融庁は、「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項」を、2024年3月29日に公表しています。サステナビリティ開示については、昨年度の審査結果を踏まえた留意すべき事項が公表され、新年度の金融庁による有価証券報告書レビューの重点テーマにもなっています。この公表資料において、昨年度の有価証券報告書におけるサステナビリティ開示に9つの課題があると指摘されています。

■昨年度の有価証券報告書審査で指摘されたサステナビリティ開示の9つの主な課題

1サステナビリティ関連のガバナンスに関する記載がない又は不明瞭である
2サステナビリティ関連のリスクを識別、評価及び管理するための過程に関する記載が不明瞭である
3サステナビリティ関連の機会を識別、評価及び管理するための過程に関する記載がない
4戦略並びに指標及び目標のうち重要なものについて記載がない
5サステナビリティ関連のリスク及び機会の記載がない又は不明瞭なため、サステナビリティに関する戦略並びに指標及び目標に関する記載が不明瞭である
6人的資本(人材の多様性を含む)に関する方針、指標、目標及び実績のいずれかの記載がない又は不明瞭である
7人的資本(人材の多様性を含む)に関する指標、目標及び実績が連結会社ベースの記載になっていない
8「サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載すべき事項を有価証券報告書内の他の箇所に記載して参照する場合において、記載上の不備がある
9「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載事項について、公表した他の開示書類等に記載した情報を参照する場合において、記載上の不備がある

(2024/3/29金融庁「令和5年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」別紙1から抜粋)

上記のとおり、識別された課題は広範に及んでいますが、新年度の審査でフォローする予定であるとされています。このため、2024年3月期以降の有価証券報告書では、法改正があった期間ではないものの、昨年度の開示内容のアップデートのみでは、新年度の有価証券報告書レビューで指摘を受ける可能性があります。金融庁が公表している上記の別紙1の資料には、指摘事項ごとに「課題のある事例」や「参考となる開示例集」も合わせて公表されていますので、自社の開示内容と照らし合わせてみることをお勧めいたします。

(2)取引先の対応に合わせた実質面の対応

「気候関連開示基準(案)」の内容が、公開草案を経て確定公表されると、プライム市場に上場する企業は温室効果ガス排出量のスコープ3(バリューチェーンの上流・下流で発生する間接的な温室効果ガスの排出量)が開示対象となっていきます。スコープ3には、仕入先から購入する「原材料」や、販売先での「製品の使用」から生じる温室効果ガスが含まれます。このため、自社が「気候関連開示基準(案)」の強制適用対象と見込まれない場合であっても、取引先にプライム市場に上場する企業がある場合、「原材料の製造にともなって生じた温室効果ガス量」や「製品の使用にともなって生じた温室効果ガス量」の情報提供が求められる可能性があります。
また、プライム市場に上場する企業から見ると、スコープ3であっても、温室効果ガスを削減することが必要となりますので、仕入先や販売先に対して、削減計画の策定や削減活動の実行が求められることも想定され、情報提供などができない場合には取引の継続が危ぶまれる可能性も考えられます。
このため、自社が直接の「気候関連開示基準(案)」の適用対象会社でなかった場合でも、取引先に対する情報提供が求められる場合もありますので、実質的に適用準備を進めることが必要な場合も起こり得るといえます。

このように、自社がサステナビリティ開示基準の適用対象とならないことが見込まれる場合であっても、サステナビリティ情報の収集を進めることが必要となるケースがあります。
もし何から着手して良いかわからない場合は、まず、「温室効果ガスの排出量」のうちスコープ1(燃料の燃焼などによる直接排出)とスコープ2(電気などの使用にともなう間接排出)の実績を算定することをお勧めします。「温室効果ガスの排出量」の実績を算定することで、自社に影響のあるビジネス領域が特定でき、スコープ3の実績、目標値の算定や削減計画の策定などの次のステップにつながっていくことになるためです。
有価証券報告書に記載があるとはいえ、サステナビリティ情報は非財務情報に該当するため、経理部でこれまで培ってきた財務情報の報告とは異なるものといえます。最初に何から取り掛かれば良いかわからない場合や、非財務情報開示をよりレベルアップしたい場合は、ぜひお問い合わせください。