新収益認識基準対応コンサルティング
システムの老朽化にともなう更新、法制度の改正、企業の統廃合など、企業内外の環境変化により通常業務やシステムの再構築が必要になる場面は珍しくありません。システムの保守性の低下にともなって、あるいは既存の業務プロセスの延長では環境変化に対応できないといった状況下では、既存システムの刷新や改修といったシステム対応を検討することになります。
例えば、新リース会計基準の導入により、今まで賃貸借処理していたリース契約や賃貸借契約について、原則として資産・負債計上が必要となります。従来は受け取った請求書を費用計上・支払処理するだけで済んでいたリース取引についても、一定のルールに従って資産・負債の金額を算定し計上することが求められることとなるため、該当取引の件数が多い場合には、既存の業務運用のみでは制度変更に十分に対応できない場合が想定されます。実際に新リース会計基準に対応するためには、リース管理システムの新規導入や既存のリース管理システムのアップデート、原価管理システムの改修、新たなインターフェースの構築といった、“システム対応”をする必要性について検討することになります。
導入したシステムがユーザーの実際のニーズや業務プロセスに合っていない場合、従前は実施できていた業務がシステム的な制約で実施できなくなる、従来の資料を大幅に修正しなければシステムへの入力ができなくなるなど、かえって業務の混乱を招く可能性もあります。そのような事態を防ぐためにも業務やシステムの再構築にあたっては、実際にシステム導入を行う前に、再構築後の業務やシステムのあるべき姿を実現可能な形で描く必要があります。とくに、システム化の実現可能性やシステム化による効果を慎重に検討する必要があります。
ここで、入金処理のプロセスを例に、入力、処理、出力の各段階にわたってシステム化のポイントを解説します。
入力段階において重要なポイントは効率的な入力方法の検討です。具体的には、どのようなデータがあるかを事前に想定し、それぞれのデータに応じた入力方法を検討することがポイントになります。
例えば、銀行の入金情報は、ファームバンキングから取得できる入金データをそのままシステムにアップロードして取り込めるケースもあれば、システムに直接データを入力するケース(通帳管理のケースや海外銀行のケースなど)も考えられます。
効率的な入力方法の観点から検討すると、直接データを入力する場合には、入力件数が多ければ入力作業が煩雑になってしまいます。このような場合には、一括入力テンプレート機能の活用などが有効です。したがって、入力段階においては実際の業務で入力する場面を想像しながら、入力方法を検討することが重要です。
処理段階において重要なポイントは処理の実現可能性です。具体的には、システムに入力されたデータと、システム内のデータ(マスタなど)をもとに、どのような処理が実現できるかがポイントになります。
例として、入金情報を仕訳情報に変換するプロセスを考えます。まず入金日と入金金額は、仕訳日付と仕訳金額になります。次に、銀行口座情報は、勘定科目マスタ(あるいは預金勘定の補助科目)と紐付けられ、預金の勘定科目が設定され、その相手勘定科目として仮受金が設定されます。さらに、振込人情報を取引先マスタなどと紐付けることで、入金と売掛金の金額が一致する場合は、仮受金と売掛金の自動消込を行います。
処理の実現可能性の観点で検討すると、振込人情報と取引先マスタなどの紐付けのためには、取引先マスタなどで口座番号や名寄せ情報の管理が必要なことや、入金金額と売掛金金額が一致しているか否かを確認するためには、売掛金の入金予定日ごとの管理が必要なことがわかります。その結果、必要な情報がどこで管理されているか、管理されていない場合はどのように入力するかを検討することになります。したがって、処理の実現可能性の検討にあたっては、入力段階の検討と行き来しながら考えることが重要です。
出力段階において重要なポイントはシステム化による効果の明確化です。具体的には、出力される帳票や画面が、業務上どのように利用され、誰にとってどのようなメリットがあるかを明らかにすることがポイントになります。
例えば、出力された仕訳伝票は上長によって承認されますが、紙で承認されるケースもあれば、システムで承認されるケースも考えられます。システム上で承認を完結させれば、紙による制約はなくなります。加えて、PCだけでなくスマートフォンからも承認できれば、スキマ時間での承認もしやすくなります。ただし、スマートフォンを利用する場合には、専用のアプリがないと画面が見づらくなる可能性もあるため、マルチデバイス対応の検討が必要になります。
このように出力結果の具体的な利用場面をイメージし、システム化のメリットを明らかにすることで、システム化によりかえって利便性が低下してしまう状況や、期待した効果を十分に享受できない事態を防ぐことができます。
とくに、会計業務領域でシステム化を検討する際は、仕訳に基づく検討が重要です。
システムによってどのような仕訳が何をトリガーに起票され、その仕訳の結果として、あるべき金額を帳簿に反映できるかを検討することが重要です。
今回は、業務やシステムのあるべき姿を実現可能な形で描くうえで重要な、システム化における実現可能性や効果を検討する際のポイントについて解説しました。システム化の検討には、さまざまな角度からの検討が必要ですが、まずは入力、処理、出力という基本的な観点から検討してみることが効果的であると思われます。