なぜJ-SOXに対応するのは難しいのか

J-SOXは、これまで毎年数10社程度「内部統制に不備がある」と報告があった状況から、制度としての実効性を確保するため、およそ15年ぶりに大きな改訂がなされ、2024年4月1日以後開始の事業年度より適用されます。

J-SOXへの対応は、黎明期の混乱から安定した運用にシフトしている会社が多いと思います。

一方で、J-SOXへの対応について、ひっきりなしにコンサルの依頼が来るのも事実です。
それらのなかには、IPO準備会社の新規対応や、上場会社でも成長した事業の新規対応、システムの入れ替えや新システムの導入にともなう更新対応といった整備・運用のサポートに関するものや、評価担当者の退職や評価範囲の拡大といった評価のサポートに関するものがあります。

具体的な内容としては、J-SOX文書の新規作成やアップデート、J-SOX評価のサポートがあります。
これらJ-SOX対応にサポートが必要な理由として、以下が考えられます。

専門性が高い

通常の文書とは異なり、J-SOXというルールに従った手順、判断、根拠を示さなくてはならず、また、監査法人の内部統制監査にも耐えられなくてはなりません。

情報共有が難しい

J-SOX文書には、文書化するまでに実施したさまざまな検討の結果のみがエッセンスとして凝縮していることが多々あります。そのため、引き継ぎ時には検討過程やニュアンスが伝えきれないということが発生しがちです。過去の整備プロセスの理解がある担当者がいない場合、更新や見直しに手を付けにくいことがあります。

片手間ではできない

とくに文書化のアップデートが必要になった場合、作業ボリュームが非常に多く、通常業務に加えて対応するだけの余力が足りなくなることがあります。限られた人員のなかでは文書化作業だけでもハードワークになります。

昨今のJ-SOXに関するコンサルニーズの高まりは、結果的に自社で対応することに比べ、コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスが高いと判断されている結果なのだと思います。
そのなかでも、以下のような状況が発生している場合には、とくにコンサルの活用の効果が高いと考えられます。

  • 既存のJ-SOX文書・評価方法のどこが非効率かわからない。
  • J-SOX文書化・評価方法を効率化する方法がわからない。
  • 対応する社内リソースが不足している。

さて、外部コンサルとしては以下の視点を持って、お客様との対話によってゴールをつくっています。
ポイントとしては、

業務管理規程の柔軟性

業務管理規程は、J-SOXにおいて評価を行う際に非常に重要な規程です。内部統制において実行されなければならないルールが示されているからであり、J-SOXはまさにこの実行ルールを評価・監査する制度です。
業務管理規程は、業務を細かく取り決めるよりは、その趣旨を明記したうえで、例外が生じた場合の取り扱いや代替的な取り扱いを定めておくと、評価上エラーになりにくいことが想定されます。

J-SOX文書のつくり込み

J-SOX文書は、毎年見直しをするものであり、業務フローに変化があれば更新することになるため、情報量を多く盛り込んだものはその作業に膨大な工数をともないます。
J-SOX文書は、形式面と(簡略な記述、定型文章など)、実質面(リスクの絞り込み、統制の絞り込み、統制テストの集約など)で可能な限りシンプルにしておくことで、つくり込む工数を最小限にできると思います。

評価範囲

J-SOX上の論点で重要なものの一つに評価範囲があります。評価範囲を決定するには、1.J-SOX基準の理解、2.自社の状況への当てはめ、3.監査人の理解がステップとして考えられます。
新基準においては、評価対象とする重要な事業拠点や業務プロセスを選定する指標について、従来から多くの企業が採用してきた、基準に例示されている「売上高等の概ね2/3」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」という要件を機械的に適用すべきではない旨を明示するなどの改訂が図られています。そのため、基準に適合した評価範囲を設定するためには、まずは「1.J-SOX基準を理解する」ことが重要になってきます。
J-SOXの評価範囲は、より早期に決着を着けておくことで評価上の工数を抑えることが可能と考えます。

「J-SOX対応として必要最低限を教えてほしい」という質問を受けることも多いですが、その回答としては「会社ごとに異なります」としか言えないのが本音です。
会社規模や業務フローの複雑性がある程度パターン化していることも考えられますが、会社はつねに成長し変化してきますので、恒久的なものにはなり得ません。

ゴールの決まっていない世界ですので、それだけに、より効率的に実行、見直しが可能な体制づくりができるといいのではないかと考えます。