サステナビリティ情報について有価証券報告書から任意開示書類を参照する場合の留意事項

2023年1月に企業内容開示府令が改正され、TCFD(気候変動に関する任意開示のフレームワーク)に基づいて、有価証券報告書の第二部「企業情報」の「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄にサステナビリティ情報を開示することが必要となった。
今回の有価証券報告書に記載するサステナビリティ情報は、「国際的な議論を踏まえると、例えば、環境、社会、従業員、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ、データセキュリティなどに関する事項が含まれ得ると考えられる。(「記述情報の開示に関する原則(別添)―サステナビリティ情報の開示について―」注1から抜粋)」と説明されており、こうした情報は、現在も任意開示書類(統合報告書、環境報告書、Sustainability Reportなど)で公表している企業も存在する。
今回の企業内容開示府令において特徴的な点として、有価証券報告書から「他の書類の参照」ができると示されているため、本コラムでは、任意開示書類などの「他の書類の参照」をする場合の留意事項について解説する。
なお、企業内容等開示ガイドライン5-16-4では、「他の書類の参照」について、「……規定する事項を有価証券届出書に記載した上で、当該記載事項を補完する詳細な情報について、提出会社が公表した他の書類を参照する旨の記載を行うことができる。」と定められているのみである。このことから、実務的な対応にあたり考え方の背景を理解するためには、パブリックコメントに対する金融庁の考え方を理解することが有用であるため、以下に参考となるものを抜粋して紹介する。

■参考となるパブリックコメントに対する「金融庁の考え方」

分類 コメントNo. 金融庁の考え方(抜粋)
参照先の対象書類等 No.234-237
  •  他の法令や上場規則等に基づき公表された書類である東証の上場規則に基づき提出が求められるコーポレート・ガバナンスに関する報告書等
No.232-233
  •  任意開示書類である統合報告書やサステナビリティ情報のデータブック、CDPなど
No.257-261
  •  ウェブサイト
他の書類を参照する場合の有価証券報告書の記載事項 No.254-256
  •  「任意に公表した他の書類」はあくまでも補完情報との位置づけであり、投資家が真に必要とする情報は、有価証券報告書に記載する必要がある
No.272
  •  一部分を参照する場合には、有価証券報告書に参照先のページなどを明記し、参照先以外の部分について不正確な情報があることを知っている場合には、その旨を注記しておくなど留意する必要がある
参照先の公表方法 No.278
  •  参照先の書類の公表方法は、公衆縦覧期間中は、投資者が無償でかつ容易に閲覧できることが望ましい
ウェブサイトを参照する場合 No.257-261

ウェブサイトを参照する場合には、以下の様な措置を講じることが考えられる

  •  更新される可能性がある場合はその旨及び予定時期を有価証券報告書に記載した上で、更新した場合には、更新個所及び更新日をウェブサイトにおいて明記する
  •  有価証券報告書の公衆縦覧期間中は、閲覧可能とする
サステナビリティ情報の対象期間 No.279-280
  •  有価証券報告書と対象期間が異なる公表書類も参照できるが、事業年度が一致していない旨を注記するなど、工夫する必要がある
  •  ただし、ISSBが開発する基準と整合的な開示基準の公表が予定されており、ISSB基準では同じ報告期間を対象にすることが求められているため、基準開発の動向に注意が必要
サステナビリティ情報の対象期間 No.238-241
  •  GHG排出量の実績値等の集計が有価証券報告書の提出時に間に合わない場合には、前年度や将来予定を参照することも考えられる
  •  将来予定を参照する場合には予定時期や公表方法、記載予定の内容を併せて記載することが望まれる
  •  有価証券報告書の提出時に、概算値や前年度の情報を記載することも考えられる
訂正報告となりうる事由 No.238-241
  •  GHG排出量の実績値等の情報を概算値で公表し、後日の集計結果が投資家の投資判断に影響を及ぼすほどに異なる場合
No.263-266
  •  参照先の情報が修正され、有価証券報告書の必要的記載事項に変更がある場合は訂正報告を提出することが望ましい
  •  参照先のURLが次年度の有価証券報告書が提出されるまでの間に変更された場合は訂正報告を提出することが望ましい
参照した書類の位置づけ No.281-281
  •  参照先の書類内の情報は、基本的には、有価証券報告書の一部を構成しない

(金融庁 2023年1月31日公表「「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について」に掲載の(別紙1)から抜粋)

以上のように、他の書類を参照することができることから、例えば3月決算会社で、従来8月頃に統合報告書などにおいてサステナビリティ情報を公表するスケジュールとしていた場合でも、6月に提出する有価証券報告書に記載するために情報収集や算定を早めることは必ずしも必要とはなりません。
しかし、他の書類を参照することで、新たに訂正報告事由に該当するかどうかなどの検討に留意が必要となります。とくに、有価証券報告書(例えば、経理部管理)と、参照する他の書類(例えば、統合報告書は広報部門、Webサイトは情報システム部門管理など)とで管理部署が異なる場合、予期せず訂正が求められるリスクが高まりますので、どの情報をどの時期に公表するかといったIR全般のスケジュールを社内で再検討することが望ましいと考えられます。