法対応にとどまらないペーパーレスの取り組み

近年、働き方改革の一環で、さまざまなワーキングスタイルに対応すべく業務プロセスのペーパーレス化を推進する企業が増えています。ペーパーレス化により、紙のない場所で仕事を進めることができる、取引情報をデータでやり取りするため速度が上がるといったメリットが考えられますが、一方で、法令により電子データで保存する際の要件が定められている文書もあり、この場合には法対応が必要となります。

電子帳簿保存法もその一つであり、国税に関する帳簿書類を電子保存する際の要件が定められています。とくに電子取引データについては、紙に印刷して保存する方法が認められず、電子データのまま保存することが求められています(令和4年度税制改正で設けられた宥恕措置は廃止予定です)。

この電子取引データの電子保存に関しては、対応の期日が迫っていることから、ペーパーレス化の取り組みのなかで法対応を主眼とした対応を進める企業が多く見られます。法対応を主眼とすると、業務の効率性については優先度が下がってしまい、結果として一部文書のペーパーレスはできるものの業務プロセスは非効率のままで、ペーパーレス化のメリットを享受できないことになってしまいます。もちろん法対応も重要ですが、それだけでなくペーパーレス化のメリットを享受するためにも、業務プロセスの効率性についても併せて検討すべきといえます。

例えば、法対応に主眼を置き、領収書のPDFを従来どおりのワークフローで精算申請した後、保存用に文書管理システムに登録する場合、日付や取引先などの同じ情報をそれぞれ入力し、またPDFファイルもそれぞれ添付することになるため、二度手間によって登録忘れが生じるおそれがあります。この点で、事前に業務の効率性までを考慮した仕組みをつくっていれば、ワークフローで最終承認を経た後、伝票情報と添付ファイルを自動で文書管理システムに登録できるようになり、入力の二度手間や登録忘れを防止することができます。

また、電子帳簿保存法への対応では、対象となる文書の範囲は会社が取り扱う文書の一部となるため、法対応で終わらず、会社全体の文書のペーパーレス化を推進すべきと考えられます。法対応を主眼としたペーパーレス化では、対象範囲も限定的となり、業務の効率性もあまり考慮されないケースもあることから、なかなかペーパーレスの効果が表れないこととなってしまいます。ペーパーレス化の対象を全社とし、また、業務の効率性の観点も併せて検討することで、単なる法対応としてのペーパーレス化ではなく、業務プロセス改善のためのペーパーレス化が推進できると考えられます。

ペーパーレス化のきっかけは法対応かもしれませんが、単なる法対応に留まらず、業務効率も主眼に置いた業務のペーパーレス化を推進することで、結果として業務改善のためのペーパーレス化が達成できるものと考えます。