2022年、東京証券取引所のプライム市場に上場する企業には、コーポレートガバナンス・コードにより「気候関連財務情報開示タスクフォース:TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」の枠組みに基づいた開示が推奨されました。また、金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの協議において、有価証券報告書にTCFDフレームワークを取り入れた気候変動を含むサステナビリティの開示欄を設ける提言がなされ、これを受けて2023年3月期決算の対象会社から開示対象にする内閣府令の改正案が11月に公表されています。
TCFDは気候変動に関する任意開示のフレームワークのため、現在は先行企業による任意開示が進んでいます。国際的な動向として、企業による開示を促進するために財務報告の枠組みを利用した開示が進められており、IFRS財団は開示基準を策定する団体であるISSBを設立し、2022年にサステナビリティ開示基準として公開草案を公表しています。日本でもこうした動向を受け、金融庁による有価証券報告書への法定開示化が議論されるようになりました。
気候変動に関する開示のうち、とくに気候変動シナリオが自社に及ぼすリスク・機会の数値化や、将来の温室効果ガスの排出量の開示は将来情報となり、これまでの開示項目以上に難易度の高い開示といえます。つまり、経理部門やIR部門のみならず、全社的な取り組みが必要となります。
以下の表に、TCFDの枠組みに沿った全社的な対応の例を要約しました。なお、プロジェクトの規模が大きくなる会社の場合には、専門チームを組成する対応も考えられます。
TCFD4分野 | 開示項目の概要 | 全社的な対応例 |
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ガバナンス | a)気候関連のリスクと機会に関する取締役会の監督について記述する。 b)気候関連のリスクと機会の評価とマネジメントにおける経営陣の役割を記述する。 |
気候変動に関する組織的な対応が必要なため、「経営陣」「取締役会などの運営部門」や、これらを定性的に開示する必要があるため「IR部門」と連携する。 |
戦略 | a)組織が特定した、短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会を記述する。 b)気候関連のリスクと機会が組織の事業、戦略、財務計画に及ぼす影響を記述する。 c)2℃以下のシナリオを含む異なる気候関連のシナリオを考慮して、組織戦略のレジリエンスを記述する。 |
気候変動に関するリスクと機会を把握し、事業や戦略に反映する必要があるため、「経営企画部門」「購買部門」「製品の開発部門」や、これらを定量的に開示する必要があるため「経理部門」と連携する。 |
リスクマネジメント | a)気候関連リスクを特定し、評価するための組織のプロセスを記述する。 b)気候関連リスクをマネジメントするための組織のプロセスを記述する。 c)気候関連リスクを特定し、評価し、マネジメントするプロセスが、組織の全体的なリスクマネジメントにどのように統合されているかを記述する。 |
気候変動に関する組織的な対応が必要なため、「経営陣」「取締役会などの運営部門」や、これらを定性的に開示する必要があるため「IR部門」と連携する。 |
指標と目標 | a)組織が自らの戦略とリスクマネジメントに即して、気候関連のリスクと機会の評価に使用する指標を開示する。 b)スコープ1、スコープ2、該当する場合はスコープ3のGHG排出量、および関連するリスクを開示する。 c)気候関連のリスクと機会をマネジメントするために組織が使用する目標、およびその目標に対するパフォーマンスを記述する。 |
温室効果ガスの排出量を把握し、目標への達成度合いを管理し定量的に開示する必要があるため、「経営企画部門」「購買部門」「製品の開発部門」「営業部門」と連携する。 |
(TCFD4分野と開示項目の概要は、TCFDコンソーシアム「TCFDガイダンス3.0(2022年10月)」から抜粋)
コーポレートガバナンス・コードへの対応や今後の法定開示化に向けて、全社的な対応を開始することが重要です。