新収益認識基準、適用初年度に気を付けるべきポイント(1):仕訳計上時は税務処理に注意を!

2018年3月に公開された新収益認識基準について、この4月より3月決算会社の原則適用が始まり、いよいよ第1四半期決算を迎えました。
今回は、これから新収益認識基準の決算を迎える会社に向けて、「(1)適用初年度に気にするべきポイント」と、3月決算の少なからぬ上場会社各社が悩まれた論点のなかで「(2)第1四半期決算にあたりとくに問い合わせの多かった『進行基準』の適用初年度仕訳」について、2回に分けて解説していきます。

新収益認識基準の適用初年度にあたっては、会計基準84項にて、以下のような「原則的な取扱い」(以下、原則法)に加え、同項ただし書きにおける例外処理(以下、例外法)が認められています。適用初年度の仕訳を検討するにあたっては、まず、原則法と例外法のどちらを採用するのかを決定する必要があります。

2020年改正会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する(以下「原則的な取扱い」という。)。
ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができる。

この点、原則法は過去の期間すべてに遡及しての会計処理が必要であることから、実務的な負荷が大変大きく、実際には例外法を採用する会社が大半を占めているのが実情です。したがって、今回は例外法の仕訳について説明します。

ちなみに、この例外法、3月決算会社ですと、2021年4月1日に今までの会計処理に新収益認識基準を適用した場合に、従来基準との差となった利益の金額を利益剰余金の期首残高に直接加減算して処理します。この点、P/L科目を利益剰余金に振り替える以下の仕訳は認知されている方も多いかと思います。

【仕訳例】

事例:
従来は契約時点で一括収益計上していた取引について、一定の期間にわたって収益を計上する場合
会計処理:
未経過期間に関する収益相当額については、契約負債として処理し、計上していた売上の取り消しを行う。

新収益認識基準適用仕訳

借方


貸方

売上 100 契約負債 100
適用初年度仕訳

借方


貸方

利益剰余金 100 契約負債 100

しかしながら、実務上適用初年度の仕訳を計上するにあたっては、売上に関する会計処理だけではなく、法人税法と消費税法のそれぞれに適合しているかを考慮しなければならないことに注意が必要です。

まず、法人税法については、新収益認識基準の適用にあたっては、法改正も進んだことから、会計処理と税務処理との違いは多くはありません。しかし、進行基準や返品といった論点については両者に差が発生する可能性があるため、適用初年度仕訳においては、税効果会計仕訳の計上の有無を判断しなければなりません。仮に、税効果会計の適用が必要となる場合には、これに関わる法人税等調整額についても利益剰余金への振り替えが必要です。

【仕訳例(税効果考慮)

新収益認識基準適用仕訳

借方


貸方

売上 100 契約負債 100
繰延税金資産 35 法人税等調整額 35
適用初年度仕訳

借方


貸方

利益剰余金 65 契約負債 100
繰延税金資産 35

次に、消費税法については、返品やリベートなど、変動対価に関する論点において会計と消費税法とで差異があります。
また、適用初年度仕訳で売上の金額が会計上は利益剰余金に振り替えられたとしても、消費税法上の課税売上がなくなるわけではありません。多くの企業が会計システムで各売上高に対して税率コードを付与して消費税計算をしていますが、税率コードの適用に注意が必要となります。こちらについては、適用初年度仕訳を計上するすべての企業が考慮して会計仕訳を考える必要がありますので、以下に仕訳例を示します。

【仕訳例(消費税考慮)】

事例:
従来はサービス提供完了時点で一括収益計上していた取引について、一定の期間にわたって収益を計上する場合
会計処理:
既経過期間に関する収益相当額については、契約資産を計上し、同額の売上を計上する。

新収益認識基準適用仕訳

借方


貸方

売掛金 110 売上(課税) 100
仮受消費税 10
適用初年度仕訳

借方


貸方

売掛金 110 売上(課税) 100
仮受消費税 10
売上(課税対象外) 100 利益剰余金 100

このように、適用初年度仕訳を検討するうえでは、売上関連の仕訳のみを単純に利益剰余金に振り替えるだけではなく、税効果会計や、消費税も考慮する必要がありますので、ご留意ください。

なお、適用初年度における売上、利益に与える意外な影響については当社コラム『ぶっちー先生の独り言「こんな影響もあったのか!新収益認識基準を早期適用して気付いたこと」』をご覧ください。

次回は、「(2)第1四半期決算にあたりとくに問い合わせの多かった『進行基準』の適用初年度仕訳」について解説します。

※当コラムの内容は個人的な見解であり、BBSの公式見解ではないことをお断り申し上げます。会計処理、税務処理の実施にあたっては、監査法人および顧問税理士にご相談ください。

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