新収益認識基準対応コンサルティング
今回は、IFRS新リース基準の内容説明として経過措置及び初度適用の取扱いを説明します。その後、財務諸表・業務・システムへの影響及び基準適用への準備について説明します。
IFRS適用済の企業が旧リース基準から新リース基準へ切り替えする際の経過措置として次の内容が定められています。
図表1:遡及方法
方法 | 内容 |
---|---|
①全面遡及アプローチ | 比較年度にも新リース基準を適用して修正再表示する。すなわち、過年度に遡及して使用権資産やリース負債等を再計算し、比較年度でも新リース基準が適用されていたかのように表示します。 |
②修正遡及アプローチ | 比較年度は修正再表示しない。すなわち、新リース基準との差異は適用開始日の利益剰余金期首残高の修正として認識します。 |
また、②の場合に、旧リース基準でオペレーティング・リースとして処理されている「リース」とファイナンス・リースとして処理されている「リース」では取扱いが異なり、図表2のように扱われます。
図表2:旧リース基準上の分類別の経過措置
旧リース基準上の分類 | 旧リース基準上の取扱い | 経過措置の取扱い |
---|---|---|
・オペレーティング・リース ・新リース基準で新たに「リース」となる取引 |
オフバランス | オンバランス (使用権資産及びリース負債を適用日で計算(※)) |
・ファイナンス・リース | オンバランス (旧リース基準で計算してオンバランスされたリース資産及びリース負債の適用日での金額を引き継ぐ) |
(※)適用開始日から12ヶ月以内に終了するリース及び少額リースについてはオフバランスの継続が認められています。その他、簡易的な取扱いがIFRS第16号C8-C10にて定められています。
オペレーティング・リース及び新リース基準で新たに「リース」となる取引が多数ある場合、過年度に開始された契約をオンバランス処理するために、使用権資産・リース負債の計上額の計算、使用権資産の固定資産管理システム・リース管理システムへの登録作業負担の大きさについて注意が必要です。
日本基準適用企業がIFRS適用に基準変更する場合の初度適用規定について説明します。
図表3:既存のリース負債、使用権資産の初度適用時の測定
リース負債 | ・IFRS移行日現在で測定 ・割引率はIFRS移行日現在の借手の追加借入利率 |
使用権資産 | リース1件ごとに次のいずれかを選択 ①新リース基準をリース開始日から適用した帳簿価額で測定。割引率はIFRS移行日現在の借手の追加借入利率
②リース負債と同額(前払・未払リース料は調整) |
(※)IFRS移行日から2ヶ月以内に終了するリース及び少額リースについてはオフバランスの継続が認められています。その他、簡易的な取扱いがIFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」D9B-D9Eにて定められています。
前節と対応させて日本基準のオペレーティング・リース、ファイナンス・リース別に対比すると図表4のようになります。
図表4
日本基準適用時の分類 | 日本基準上の取扱い | 経過措置の取扱い |
---|---|---|
・オペレーティング・リース ・新リース基準で新たに「リース」となる取引 |
オフバランス | オンバランス |
・ファイナンス・リース | オンバランス(前節の経過措置と異なり、原則としてオペレーティング・リース、ファイナンス・リースの区別なく図表3の再計算が必要) |
経過措置と異なり、初度適用ではすべてIFRSベースで再計算するのが原則的な取扱いとなります。
したがって、初度適用の場合、短期リースに準じたリースと少額リースを除く全リースについて、使用権資産・リース負債の計上額の計算、使用権資産の固定資産・リース管理システムへの登録作業等が必要になります。もっとも、日本基準のファイナンス・リースの処理は、IFRSの処理に近似した処理であったため、一般的には重要性の判断を考慮して対応する事になると考えられます。
いずれにしても、現行のオペレーティング・リースに関しては計算・登録作業が必要です。また賃貸取引等でも新リース基準の適用により新たに「リース」となるものがあります。したがって、負担の大きさについて注意が必要です。
従来はオフバランスで処理されていた賃貸取引・オペレーティング・リースが新リース基準の適用でオンバランス処理になる場合でいうと、以下の影響があります。
図表5:財政状態計算書及び包括利益計算書への影響
図表6:キャッシュ・フロー計算書への影響
(1)購入・リースの判断への影響
購入かリースかの意思決定にあたり、購入かリースかの判断上、リースのメリットがかなり失われます。
したがって、設備の購買方針(購入・リースの選択方針)を再検討することが考えられます。
図表7:リース取引(現行会計処理はいわゆる賃貸借処理とする)の従来のメリットへの影響
従来のメリット | 新リース基準による影響 | |
---|---|---|
定額のリース料を計上すればよいため、会計処理が簡単 | 影響あり | 「リース」の判定、使用権資産の償却、リース負債の算定等、会計処理はかなり複雑になる(リース負債の計算が必要という点では購入より作業量が多い) |
損益計算書上での費用の平準化が図れる | 影響あり | 減価償却費+支払利息の計上になるため平準化しなくなる |
オフバランスで設備を利用できるため、ROA等の経営指標(KPI)で効率的に見せることができる | 影響あり | ROA等の経営指標(KPI)は悪化するものがある |
耐用年数よりリース契約期間が短期である場合、早期に損金算入され、税金削減効果が早期に現れる | 影響なし | 日本ではIFRSは連結財務諸表のみが適用対象であり、課税所得には影響しない |
当初に多額の資金を用意する必要がない | 影響なし | キャッシュ・フローには影響しない |
付保手続、保守メンテナンス業務、現物処分等で管理事務工数の削減が図れる | 影響なし | 現物管理には関係ない |
一時的にしか利用しない資産・設備を柔軟に調達・利用できる | 影響なし | 現物の利用には影響しない |
(2)賃貸契約・リース契約での契約条項の検討
原資産の使用状況や契約内容によっては「リース」の判定を明確に行うことが困難なケースも想定されます。賃貸契約・リース契約に際して「リース」判定が明確となるように契約内容を貸主・リース会社と協力して検討することが考えられます。
また前回説明したように「リース期間」の決定では解約不能期間に「行使することが合理的に確実な延長条件、解約条件」を加減しますので、延長条件、解約条件には注意して契約検討する必要があります。
(3)業務フローの見直し(単体会計)
賃貸契約・オペレーティング・リースは、従来はオンバランス処理に付随する減価償却費計算等が必要なかったため、企業によっては総務部門を中心に管理し、経理部門は賃借料・リース料の支払のみ行う分担となっているところもありました。
しかし、新リース基準の適用後は、「リース」の判定、使用権資産・リース負債の当初測定が必要になるため、契約時に、判定や算定に必要な証憑の提出を受ける必要があります。したがって、賃貸契約・リース契約プロセスでの経理部門の関与、提出証憑について、大幅な見直しが必要になる場合があります。
また、現状ファイナンス・リースである契約も含め、条件変更等により使用権資産やリース負債を再測定するプロセスの整備が新たに必要となります。
(4)業務フローの見直し(連結財務諸表作成)
日本の開示制度上、現時点(2016年12月末)ではIFRSは連結財務諸表のみ適用であり、単体財務諸表は日本基準が引き続き適用されますので、当面、新リース基準への対応は一般的には連結決算時における基準調整項目となります。
したがって、連結情報収集パッケージでの財務諸表の勘定科目の追加(使用権資産)や注記等収集情報の見直しが主な対応となります。
(1)使用権資産対象数の増加
リースにあたる賃貸等取引・オペレーティング・リースもオンバランスし、使用権資産の償却計算や、リース負債の(いわゆる)利息法計算を行っていく必要がありますが、従来処理対象の件数が大幅に増加する懸念があります。したがって、従来はオンバランスするリースの処理をExcel作業で対応していたような会社でも、決算の迅速化・計算ミス等による誤謬の防止等の観点から、使用権資産管理についてシステム利用するニーズは大幅に高まっていると考えられます。
図表8:旧基準の分類・管理方法別の新リース基準の影響
(2)新旧リース基準の差異
これまでの説明を踏まえ、新旧リース基準の差異に基づき、それに対応したシステム対応事項、影響事項を表すと図表9の通りです。
図表9:新旧リース基準の差異とシステム対応事項、影響事項
(3)連結調整
日本基準のリース基準とIFRSのリース基準の内容が異なる間は、連結調整で基準差異を調整することになります。業務効率の観点からは、固定資産管理システムで基準差異の算定を行うことが考えられます。
図表10:IFRSへの組替調整を連結調整で行う場合の情報連携イメージ
基準適用への準備の全体像は、図表11のようになります。
図表11:基準適用への準備の全体像
日本基準の新リース基準へのコンバージェンス時期は未定です。企業会計審議会が2016年8月12日に公表した「中期運営方針」において、今後、開発に着手するか否かを検討する基準にIFRS第16号「リース」も取り上げられていますが、11月14日の基準諮問会議では検討を開始していないと報告されています。
<今回のまとめ>
(経過措置・初度適用)
(業務・システムへの影響)