新収益認識基準対応コンサルティング
前回は、新リース基準制定の背景及び二本立ての借手会計モデル(ファイナンス・リース、オペレーティング・リースの分類)が廃止され、「リース」の判定が重要になっていることについて述べました。今回は、「リース」の判定について、さらに説明します。
また、新リース基準への対応に影響する使用権資産及びリース負債の算定や、セール・アンド・リースバック取引及び転リース取引の変更点について説明します。なお、特に断りの無い場合、借手の処理に絞って説明します。
「リース」の判定は旧リース基準でも求められていましたが、新リース基準の公開草案の審議において、ファイナンス・リースかオペレーティング・リースかの判定がなくなった新リース基準では、「リース」に該当するかの判定に重要度が高まっているとの意見がありました。そこで、確定した基準では判定要件の精緻化が図られました。
「リース」の判定の概略は次の図の通りです。
図1 リースに該当するかの判定要件(IFRS16.B31)
リースの対象となる資産が識別できる(特定できる)かを判定します。当初の資産が契約書上で明示されていても、供給者(貸手)の判断で対象資産を入れ替えられる場合には、対象となる資産は識別できないと判定します。ただし修理やメンテナンスが必要な場合に代替資産に交換することは判定に影響しません。
顧客(借手)が使用期間を通して実質的に全ての経済的便益を享受できるかを判定します。対象資産を独占的に使用できるかや、対象資産を使用する時期や場所を顧客(借手)の判断で自由に決定できるか等を考慮します。
顧客(借手)が資産の使用方法及び使用目的、稼働・操作についてどのような権利を持っているかに注目して判定します。
顧客(借手)が使用期間を通して識別された資産の使用方法及び使用目的を指図する権利を有しているか(STEP3)、資産の使用方法または使用目的に関して契約上で決定済である等で、顧客(借手)も供給者(貸手)も指図する権利を持たなくても、顧客(借手)に使用期間を通じて資産を操作する権利があるか(STEP4)や、顧客(借手)が契約前にあらかじめ資産の使用方法及び使用目的を決定し、設計していたか(STEP5)を考慮します。
上記の判定要件は抽象的であることから、新リース基準ではさらに10個の設例を設けて判断の参考になるように図っています。
新リース基準の設例(IFRS16.IE2より)
① 鉄道車両
② 小売スペース
③ 光ファイバー・ケーブル
④ 小売区画
⑤ トラックのレンタル
⑥ 船舶
⑦ 航空機
⑧ シャツに関する契約
⑨ エネルギー・電力に関する契約
⑩ ネットワーク・サービスに関する契約
「リース」の判定を、営業用車両、テナント契約について当てはめると次の通りです。
例1 営業用車両
取引の概要 |
|||
---|---|---|---|
・借手会社は、リース会社から車両の供給を受ける |
|||
Step |
判定要件 | 判定 | |
1 | 資産は識別されているか | Yes (該当) |
車両は車体番号で指定されており、資産は識別できると考えられる |
2 | 顧客が使用期間を通して実質的に全ての経済的便益を享受できるか | Yes (該当) |
5年間を通して、会社は車両を独占的に使用できるから、実質的に全ての経済的利益を享受すると考えられる |
3 | 使用期間を通して識別された資産の使用方法及び使用目的を指図する権利を有しているのは、顧客か、供給者か、どちらでもないのか | Yes (該当) |
爆発物等の危険物の運搬禁止条項は使用権の「範囲の制限」にはなるが、範囲内では使用権を指図する能力を妨げられていないため、使用方法及び使用目的を指図する権利については顧客にあると考えられる |
4 | 供給者が稼働方法を変更する権利を有せず、顧客が使用期間を通して資産を操作する権利を有しているか | - (評価不要) |
Step3までで、契約は「リース」を含むと判定できるため、評価不要 |
5 | 顧客が使用期間を通した資産の使用方法及び使用目的をあらかじめ決定し、計画していたか | - (評価不要) |
同上 |
判定結果 |
|||
新リース基準上の「リース」となる |
例2 テナント契約
取引の概要 |
|||
---|---|---|---|
・入居会社は、ショッピングセンターの1区画で衣料販売店を営業するために入居する。区画は指定されており、移動はしない |
|||
Step |
判定要件 | 判定 | |
1 | 資産は識別されているか | Yes (該当) |
区画は固定されており、移動しないとのことであるため、資産は識別できると考えられる |
2 | 顧客が使用期間を通して実質的に全ての経済的便益を享受できるか | Yes (該当) |
区画内について、入居会社は独占的に使用しており、1年間を通して実質的に全ての経済的便益を享受できると考えられる |
3 | 使用期間を通して識別された資産の使用方法及び使用目的を指図する権利を有しているのは、顧客か、供給者か、どちらでもないのか | Yes (該当) |
営業日、営業時間の指定は使用権の「範囲の制限」にはなるが、衣料販売店の内装、設備等は入居会社が設計しており、役務提供内容(取扱商品、価格)も入居会社が自由に決定できることから、範囲内では使用権を指図する能力を妨げられていないといえ、使用方法及び使用目的を指図する権利については顧客にあると考えられる |
4 | 供給者が稼働方法を変更する権利を有せず、顧客が使用期間を通して資産を操作する権利を有しているか | - (評価不要) |
Step3までで、契約は「リース」を含むと判定できるため、評価不要 |
5 | 顧客が使用期間を通した資産の使用方法及び使用目的をあらかじめ決定し、計画していたか | - (評価不要) |
同上 |
判定結果 |
|||
新リース基準上の「リース」となる |
リース負債はリース料総額(前払したリース料は控除)の割引現在価値として計算します。リース料総額の内訳項目について、新リース基準では固定のリース料以外にも含める項目を示しています(図2参照)。一方、日本基準では対応する定めはありません。重要性の検討も必要ですが、差異の調整が必要となる可能性があります。
図2 リース料総額に含まれる項目の差異
使用権資産について、新リース基準ではリース負債=使用権資産ではなく、さらに、当初直接コストも考慮することを明確に示しており、次のように算定します。
項目 | |
---|---|
+ | リース負債の当初測定額 |
+ | リース開始日以前の前払リース料 |
- | リース開始日以前の受領済リース・インセンティブ |
+ | 当初直接コスト |
+ | 原状回復費用見積額 |
= | 使用権資産 |
上記の項目を考慮した当初測定時の仕訳例は次の通りです。
(注1) 上記の仕訳では消費税は考慮しておりません。
(注2) IFRS第16号では開示科目名は定めていないため、上記の科目名は仮のものとなります。
日本基準では、原状回復費用見積額については資産除去債務で計上される場合があるものの、当初直接コストについては対応する定めはありません。したがって、重要性の検討も必要ですが、差異の調整が必要となる可能性があります。
「リース期間」は、次のように算定します。
「合理的に確実(reasonably certain)」については、再配置コストの大きさ、専用資産であるかどうか、違約金の存在等の考慮事項が示されており、経済的メリットの優劣で判定します。
例えば、契約期間の中途での解約条項(解約オプション)はあるが、残存期間のほとんど全てのリース料相当額の違約金を支払う必要がある場合、中途解約は「合理的に確実でない」と判定され、他の条件がなければ、契約期間が「リース期間」と考えられます。
日本基準では、借手が再リースを行う「意思が明らか」な場合のみ再リースを「リース期間」に含めるとされ、主観的に判定できるため、再リース期間はリース期間に含めないことが一般的でした。新リース基準では再リース期間を含めてリース期間とすべきケースが出てくる可能性があります。
新リース基準では、原資産の追加やリース負債の前提条件の変更があった場合に、使用権資産、リース負債を再測定することを明確に示しています。
変更内容 | 処理 |
---|---|
リース期間の変化 (解約不能期間の変化や、延長オプション又は解約オプションに関する一定の重大な事象又は状況の重大な変化(IFRS16.20)の発生) |
リース料総額、割引率を見直してリース負債を再計算。連動して使用権資産を修正 |
原資産の購入オプションの変更 | |
残価保証額の変更 | リース料総額を見直してリース負債を再計算。連動して使用権資産を修正 |
変動リース料の指標の変更 |
該当するケースが発生した場合に、必要な情報を収集し使用権資産及びリース負債の修正を行うプロセスを整備することが必要です。
セール・アンド・リースバック取引とは、企業(売手・借手)が、他の企業(買手・貸手)に資産を譲渡して、その資産を他の企業(買手・貸手)からリースバックする取引をいいます。
日本基準では譲渡時点で売却益を一度に認識せず繰り延べます。
一方、新リース基準では、まず他の企業(買手・貸手)への資産の譲渡が売却になるか否かを収益認識基準(IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」)に照らして判定します。
(※)例えば、原資産の残存耐用年数がリースバックのリース期間よりも長い場合には、リースバックのリース期間中の使用権は企業(売手・借手)に留保され、リース終了後の使用権は他の企業(買手・貸手)に移転することになります。この場合、リースバックのリース期間中の使用権に対応する売却損益は取消します。
図及び仕訳にて説明すると次のようになります。
上記の仕訳
(注1) 原資産の帳簿価格に対する原資産の公正価値とリースバックのリース料総額の割引現在価値との割合
=原資産の帳簿価格150(リースバックのリース料総額の割引現在価値200原資産の公正価値240)
(注2)原資産のうち企業(売手・借手)に使用権が留保される部分(=使用権資産を認識する部分)からの売却益を取消し。
転リース取引とは、原資産が借手(「中間的な貸手」)から第三者にさらにリースされ、貸手と借手との間のリース(「原リース」)が依然として有効であるリース取引をいいます。
日本基準では、中間的な貸手は、一定の場合に、原リースと転リースを連動させ、受取リース料と支払リース料を相殺して転リース差益として計上することを求めています。一方、新リース基準の原則的な考え方は原リースと転リースとを別個のリースとして扱うこととしています。貸手の処理は二本立ての貸手会計モデルを継続するため、転リース部分は、所定の判定により、ファイナンス・リースまたはオペレーティング・リースとして処理します。
この結果、特に中間的な貸手となる企業では、仕訳計上方法や収益、費用計上額が大きく変わる可能性があります。(新リース基準では、借手企業での処理変更が大きいですが、転リースについては、連動が切れることで、貸手企業の処理変更も大きいといえます。)
中間的な貸手について、仕訳例を示すと次の通りです。
(1)転リースがファイナンス・リースの場合の仕訳例
(2)転リースがオペレーティング・リースの場合の仕訳例
(3)比較用参考:日本基準の場合の仕訳例
(注1) 転リース取引において手数料収入以外の利益は生じさせないため、受取・支払利息相当額については仮勘定(上記では仮払金)で処理
(注2)原リースのリース支払額と転リースのリース料収入の純額を転リース差益として認識
<今回のまとめ>