今回は、コスト最適化の具体的な進め方の説明を行うが、前回述べたとおり、主に間接費に関わるコスト最適化プロセスについて説明する(人に関わるコスト最適化は、第3回に説明する)。
尚、コスト最適化のアプローチ方法というのが主旨ではあるが、イメージしやすいように、以下では、一度、コスト削減を念頭において、説明を進めていきたい。
一般的なコスト最適化プロジェクトとしては、下記のようなステップを踏む。
上記のうち、特に説明が必要と思われる(2)見える化(現状分析)~(4)削減ポテンシャル算出について説明していきたい。
まず、見える化(現状分析)を行うにあたっては、後工程で削減施策を練るために必要な「単価」と「数量」に分類できないかを意識して、以下のコスト方程式を念頭におく。
例えば、「v1x1」に関しては、販売促進費など「売上あたり販売促進費売上」といった変動費をイメージし、「f」に関しては、賃借料などの固定費をイメージすると良い。このように、あるコストは何に比例するか、比例しないのかを分類し、比例するものについては、「何に」比例するかも考えるのが、見える化の最初のステップとなる。もちろん、必要に応じて現場から取引実態をインタビューして実情を把握することも重要である。
さて、上記を踏まえ、具体的なコスト分類方法について説明する。
まず勘定残高ベースで、前述のように、「単価」「数量」及び「比例計数」を分類しようとしていくが、実務上は、勘定残高レベルでは、コストを本当に見える化するレベルの情報を得られないことが多い。そのため、勘定科目によっては、会計の仕訳情報を利用する。具体的には、会計仕訳情報の部門、取引先、摘要、発生元システムなどを分類して、取引属性を考慮して分析可能な情報に作り込んでいく。そうすることで、スポット取引か定期的な取引か、法定関連コスト(コスト交渉余地のない協会認定機関による検査費用等)か非法定関連コストか、固定制の取引か変動制の取引か、通常取引先かグループ内取引先か、など、より取引の実態を反映した「単価」「数量」に分解できる。
上記のように進めていくことで、それぞれの取引のボリューム感が見えてきたり、どこに削減余地がありそうかどうかもつかめてくる。そして数字を整理し、グループ会社取引やバーター取引に近い「業務委託費」、創業事業に関わるコストや、歴史的経緯から暗黙の聖域(削減不可な領域)となっている範囲について経営者に判断を仰ぐことで、時には最初は聖域となった領域(例えば、費用対効果が曖昧な営業コストや社用車などの待遇コスト)にも切り込む判断をするなどして、コスト削減検討範囲を合意する。
理由は、一般的にプロジェクトスタート段階で経営者と削減目標額を合意しているケースが多いが、経営者が設定した聖域があまりにも大きいと、検討範囲に対する削減金額に限界が生まれるため、そうした認識を経営者と握り、適正な削減目標金額を検討し直す必要があるからである。
また、間接費のコスト削減は、業務改善の中でも、優先順位が上がらないケースも多い。よく、「戦略は実行されなければ意味がない」と言うが、同様に、せっかく策定したコスト削減案も実行されなければ意味がない。実行力が伴うコスト最適化には、当然のことながら、現場の力が必須である。目指すべくは、継続的なコスト最適化活動であるため、よって、特に日本企業は、現場と経営者がコンセンサスを得ながらこうした活動に取り組むのが好ましい。現場力を活かすことで、一時しのぎな施策ではなく、現場でコストを最適化するノウハウを蓄積していくことが可能である。
コスト削減検討範囲の確認から、話は少し広がった節もあるが、上記の通り、経営者と現場の共通理解に基づいた納得性を確保することで、最適なコストサイズがどれだけかを把握し、縮小均衡に陥るのではなく、時には時流に合わせて投資を行うなどストレッチしたコストコントロールができるようになる。
上記のように削減検討領域の分類とコスト削減検討範囲の確認を行った上で、具体的に下記のような分析を行っていく。
さらりと書いたが、こうした作業は、仮説をベースに何度もシミュレーションしながら行う必要があるため、Excelのピボットテーブルを使用するのにとどまらず、時には、BIツールを活用するのも有効である。
こうした分析を行うことで、削減ポテンシャル(「他部署並みに下げられそうだ」など
)が徐々に見えてきているはずである。それらを踏まえ、「数量」のような自社内部である程度コントロールできる内容と、「単価(価格)」のような外部の取引先との交渉が必要な内容の大きく二つを考え、具体的な削減(最適化)施策案を検討していく。
尚、コア業務とノンコア業務を切り分けて、ノンコア業務を外注することがよく見られるが、よほど人員削減を行わない限りモニタリングコスト(外注管理の手間)がオーバーヘッドとしてかかることでコスト削減が進まなかったり、結局は外部委託することで人に関わるコスト構造を変化させることができなかったりするため、内製・外製の判断は慎重に行うべきことを付け加えておく。
上記のような削減施策案を具体化して削減ポテンシャルとして算出し、以下のようにまとめる。
No. | 削減施策案 | 削減効果(単位:百万円) | 備考 | |||
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2016 下期 |
2017 上期 |
2017 下期 |
2018 上期 |
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1 | [外注費]外注先Aに対して、(東京)の単価を(大阪)と同等に価格交渉 | XXX | XXX | |||
2 | [外注費]契約形態見直しによる作業時間コントロール | XXX | XXX | |||
3 | [発注]ライセンス発注を一本化し、単価交渉 | XXX | ||||
4 | [間接費/賃借料]東京営業所の家賃交渉 | XXX | XXX | XXX | 近隣の対家賃との比較 | |
5 | [間接費/共益費]東京営業所の共益費交渉 | XXX | XXX | XXX | 近隣の対家賃比率共益費にて試算 | |
6 | [間接費/動力照明費]売上に応じた動力照明費の適正化 | XXX | XXX | XXX | ||
7 | [外注費/常備品管理]常備品数量減を通じて、業務量減らし、人員減できないか検討 | XXX | XXX | 現状レベルの売上規模を想定して試算 |
ここまで説明してきたが、上記を、具体的に責任部門やタスクスケジュールに落とし込む(5)具体的改善施策立案以降については、通常の社内の業務改善プロジェクトと何ら変わらず、PDCAを回してくことに変わりはないので、今回のコラムの説明からは割愛する。
以上、今回は、コスト最適化のアプローチ方法について考えを述べてきたが、次回は、人に関わるコスト最適化のプロセスについて説明する。