第5回 新収益認識基準(IFRS第15号)の表示・開示

今回は、IFRS第15号の表示及び開示(注記事項)の内容、関連した個別論点を説明します。

表示

IFRS第15号では、契約の中の残存する権利及び履行義務について、財政状態計算書上に、「契約資産」又は「契約負債」を純額で表示することが求められています(表示名称は、「契約資産」、「契約負債」以外の代替的なものを用いることも認められています)。ただし、対価に対する無条件の権利は、「債権」として区分表示します。

  • ①契約資産
    企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利です。
    ただし、表示上は、対価に対する無条件の権利(「債権」)は除外し、時の経過以外の何かを条件としている(例えば、企業の将来の履行)部分のみ契約資産となります。
  • ②契約負債
    企業が顧客に財又はサービスを移転する義務のうち、企業が顧客から対価を受け取っている(又は対価の金額の期限が到来している)ものです。
    いわゆる前受金は、契約負債になります。

開示

IFRS第15号では、日本基準はもとより、現行のIFRSとの比較でも、多数の新たな情報の開示が求められています。
財務諸表利用者が、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期、不確実性を理解できるように、以下についての定量的情報及び定性的情報の開示が求められます。

  • ①顧客との契約
  • ②顧客との契約にIFRS第15号を適用する際に行った重要な判断及び当該判断の変更
  • ③顧客との契約を獲得又は履行するためのコストから認識した資産

「①顧客との契約」については、収益の分解、契約残高、履行義務、残存履行義務に配分した取引価格の開示が求められています。

各項目開示する主な定量的情報及び定性的情報は以下の通りです。

開示項目 主な定量的情報 主な定性的情報
顧客との契約 ・認識した収益
・認識した減損損失
収益の分解 ・収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期、不確実性がどのように経済的要因の影響を受けるのかを描写するように分解した収益金額
・分解した収益とセグメント情報との関係(個別論点(2)参照)
契約残高 ・債権、契約資産、契約負債の期首残高、期末残高 等
・履行義務が契約資産及び契約負債残高に与える影響
・契約資産及び契約負債残高の重大な変動理由
履行義務 ・履行義務充足の通常タイミング
・重大な支払い条件 等
残存履行義務に配分した取引価格 ・期末現在で未充足(又は部分的に未充足)の履行義務に配分した取引価格の総額 ・残存履行義務の収益認識見込時期、取引価格に含まれていない対価の有無
履行義務の充足の時期 ・収益認識に用いる方法(インプット法、アウトプット法の内容)と採用理由
・一時点で充足する履行義務の充足判断理由 等
取引価格及び履行義務への配分額 ・取引価格の算定と配分方法 等
契約獲得又は履行のコストから認識した資産 ・主要区分別資産残高
・償却額、減損損失金額
・契約コストの算定判断理由
・償却方法

個別論点(1)契約資産と契約負債

<ケース>

X1期1月1日に、製品を顧客にX1期3月31日に移転する解約不能な契約を締結します。この契約は、顧客がX1期1月31日までに500の対価を前払することとなっています。前払いは実際にはX1期2月10日に支払われ、製品の移転はX1期3月31日に行われたものとします。

<仕訳例>

X1期1月31日に、対価に対する無条件の権利を有したため、売掛金(債権)と前受金(契約負債)を認識します。

(借)売掛金
500
(貸)前受金(契約負債)
500

X1期2月10日に、前払いの実行を受けて、売掛金を消し込みます。

(借)預金
500
(貸)売掛金
500

X1期3月31日に、製品の移転が行われたことを受け、収益を認識します。

(借)前受金(契約負債)
500
(貸)売上
500

<業務・システムの考慮事項>

  • 履行義務の充足に合わせた仕訳、勘定科目を検討する必要があります。
  • 外部開示での表示科目の見直し要否を検討する必要があります。

個別論点(2)収益の分解の開示

IFRS第15号では、収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期、不確実性がどのように経済的要因の影響を受けるのかを描写する区分に分解することを求めており、以下のような区分例が挙げられています。

区分例 区分軸例
財又はサービスの種類 主要な製品ライン別
地理的区分 国別、地域別
市場又は顧客の種類 政府と政府以外の顧客の別
契約の種類 固定価格と実費精算契約の別
契約の存続期間 短期契約と長期契約の別
財又はサービスの移転の時期 一時点で認識する収益と一定の期間にわたり認識する収益の別
販売経路 消費者に直接販売される製品と仲介業者を通じて販売される製品の別

<ケース>

財務諸表上、事業セグメントとして消費者用製品、輸送用機器、エネルギーの主要な製品ラインをセグメント情報として報告している。また、投資家向け説明資料を作成する際に、収益を主たる販売地域、主要な製品のライン、収益認識のタイミング情報に分解して収集している。

<検討>

投資家向け説明資料で使用している区分を収益の分解開示においても使用できると判定し、主たる販売地域別、主要な製品のライン別、収益認識のタイミング別の金額を開示します。また、分解した収益とセグメント情報との関係を示すため、セグメントとのマトリクス表で開示します。

<開示例>

セグメント 消費者製品 輸送用機器 エネルギー 合計
主たる販売地域
北米 990 2,250 5,250 8,490
欧州 300 750 1,000 2,050
アジア 700 260 960
1,990 3,260 6,250 11,500
主要な製品のライン
事務用品 600 600
電気器具 990 990
衣類 400 400
二輪 500 500
四輪 2,760 2,760
太陽光パネル 1,000 1,000
発電所 5,250 5,250
1,990 3,260 6,250 11,500
収益認識の時期
一時点で移転される財 1,990 3,260 1,000 6,250
一定の期間に渡り移転されるサービス 5,250 5,250
1,990 3,260 6,250 11,500

<業務・システムの考慮事項>

  • 収益の分解区分について検討する必要があります。
  • 収益を区分して収集できるように、販売管理システム等での分類項目の追加要否を検討する必要があります。

<今回のまとめ>

  • ◆契約の中の残存する権利及び履行義務は、契約資産又は契約負債として表示しなければならない。
  • ◆収益認識について、多数の定量的・定性的情報を開示しなければならない(顧客との契約、適用の際の重要な判断、契約コストから認識した資産等)
  • ◆収益の分解、契約残高、履行義務、残存履行義務に配分した取引価格に関する情報等を開示しなければならない。

(注)仕訳例の勘定科目は例示であり、今後、IFRS第15号での新しい概念・用語を反映した新しい名称の勘定科目が一般的となる可能性があります。また、税効果仕訳、消費税仕訳は考慮していません。