第4回「連結経営管理基盤の青写真作りとは?」

1.連結経営管理基盤の青写真(グランドデザイン)の必要性

グループ経営を支える連結経営管理基盤では、多様化する情報ニーズに対応していくことが必要となります。会社によって情報ニーズは当然異なりますが、第二回で考えてきたように、情報ニーズを類型化すると「業績」「予実」「資金繰り」「為替」「製品採算」「製品原価」「数量情報」が考えられます。構築に先立ち青写真(グランドデザイン)の策定を無くして、成功は望めないと考えます。優先順位の高いものから順番に作ったり、構築しやすそうなものから作ったりした場合、以下の理由からシステム化がうまくいかず、最悪の場合、破たんしてしまうリスクがあると考えられます。

  • 使えないデータの山となる
    「意思決定に必要な情報」が何かについての検討を行わないで、かき集めるデータを定義しても、使えないデータの山となる。
  • データの整合性確保が困難
    「データの整合性をどこまで確保」するかについての「事前の計画」を持たずに順次開発を行うと、データ矛盾が発生する
  • マスターの重複が発生する
    連結経営管理基盤で取り扱う様々なコードについて「コード体系」と「メンテナンス方針」を持たずに順次開発を行うと、マスターの重複メンテナンスとコード体系の不整合が発生する
  • データ収集が複雑化する
    連結経営管理基盤で取り扱う様々なデータについて「データソース」と「収集ルールの方針」を持たずに順次開発を行うと、データ収集の複雑化と収集データ間の不整合が発生する

2.連結経営管理基盤の青写真(グランドデザイン)の進め方

グランドデザインの基本ステップ以下の通りとなります。

グランドデザインの工程・主要成果物

3.グランドデザインの意義

グランドデザインでは、事業・組織特性、現状課題とニーズを踏まえ、

  • 目指すべき姿 (業務改革方針、業務の目指すべき姿)
  • 実現の手段 (マネジメント方針、組織方針、業務方針、システム方針)

をまとめます。グランドデザインは、密室で決めるものではなく、社内の知恵を結集し、方向性を定める必要があります。また、まとめたものを関係者で共有し、コンセンサスを形成することが重要になります。

長期に渡る活動を展開する場合、環境の変化に伴い新たな課題が出てくることが考えられます。そうした場合、「原点」に立ち返る必要も出ます。グランドデザインは、そうした「原点」となる関係者全員の「バイブル」になります。言い方を変えると、グランドデザインを作っても共有化しなければ、単なる書類の束となります。

グランドデザインは、テーマによっては大きなボリュームになります。関係者が隅々まで読み、同じ理解に至ることは期待できません。そのため、関係者とのコミュニケーションも重要になります。「プロジェクトの失敗原因は、コミュニケーション不足」というケースが多くあります。

4.BBSのサービス

ビジネスをグローバルに展開する企業にとって、連結経営管理基盤の構築が極めて重要になっている中で、「価値あるサポート」とは何かを考えてきました。その成果を、本コラムの冒頭でも紹介したように、ホームページ、BBS Group News、出版物等で発信してきました。

ただし、これらは文字で描かれた「概念」であり、実際に現場でグランドデザインの検討を開始すると様々な「現実問題」に直面することになります。グランドデザインを策定するためには、先ず3つの壁を克服する必要があると考えます。

  • 「知識の壁」
    連結経営管理基盤は、グループの事業構造、組織構造、業務形態を踏まえる必要があるため、広範な知識が求められます。
  • 「課題把握の壁」
    グループの経営実態を示す情報を体系的に把握するためには、膨大な業務上、システム上の課題が出てきます。そのため、課題抽出・分析を適切に行う必要があります。
  • 「計画作りの壁」
    「目指すべき姿」を決め、その「実現手段」と「実行計画」を作る必要があります。

この3つの壁を、社内のメンバーだけで乗り越え、グランドデザインを策定することは、難易度が高いと言えます。連結経営管理の領域は、「絶対的な解」も世の中が認める「ベストプラクティス」も存在しません。企業の経営スタイル、事業形態、組織構造等を反映した、その会社としての実現可能(つまり、実現手段付き)な「目指すべき姿」を定義する必要があります。

BBSでは、コンサルタントの役割として、基本的に以下の3つを考えています。

  • 基本的な知識を共有する。
  • 論理的に考える方法論・技法を提供する。
  • 企業の特性に合わせ最適解(目指すべき姿)を一緒に考える。

知識はコンサルタントの前提であり、方法論・技法はコンサルタントのツールであるので、わかりやすいと思いますが、問題は「目指すべき姿」です。

「目指すべき姿」は、経営層にヒアリングして意見集約すればまとまるというものではありません。通常の法人内の業務システムでは、「受注~在庫引当~出荷指示~出荷~請求」というように、業務プロセスとデータの関係が明確です。しかし、連結管理の領域は、連結予算、連結資金等のように、グループ各社の計画と本社の計画をどのように連動情報系では、世界各地の拠点で分散管理されている情報をどのように収集し、どのような整合性を確保して、データベースに格納し、活用していくか?ということを定義する必要があります。現在、実現していない業務であり、具体的なイメージを持ちにくい領域で在ります。そのため、実際に現場でお客様と議論してもかみ合わず、なかなか議論が進まないケースもあります。

グランドデザインの検討を効率的に進めるために、BBSでは、第二回で紹介した8つのコンポーネントについて、企業モデルを定義し、コンポーネントごとの業務モデル(業務機能、プロセス)を定義してきました。また、その業務機能に基づき、システムモデルを順次開発を行っています。これにより、ゼロベースで検討をスタートするよりも具体的なイメージをもって業務要件、システム要件を検討できるようになると考えています。

5.最後に

これまで4回に渡り「グループ経営を支える連結経営管理基盤」の構築に向けて考慮すべき基本的な論点について、説明を行ってきました。これらの論点は、「連結経営管理基盤」に限らず、企業の仕組み作りのベースとなる考え方だと思っています。現場でお問い合わせに対応する中で、「何を今後管理すべきか?」の議論ではなく、「どのソフトウェア・ツールを導入すべきか?」の議論に終始してしまうケースがあります。くれぐれも、パッケージソフトやBIツールを導入することが目的にならぬようにしていただきたいと思います。

企業経営に役立つ仕組みの構築が、企業の業務部門およびIT部門の役割であり、その活動を支援させていただくのが我々コンサルタント会社の役割だと考えています。

今後の皆さまの検討の一助となれば幸いです。
倉林 良行