グループ経営を支える連結経営管理基盤では、多様化する情報ニーズに対応していくことが必要となります。会社によって情報ニーズは当然異なりますが、第二回で考えてきたように、情報ニーズを類型化すると「業績」「予実」「資金繰り」「為替」「製品採算」「製品原価」「数量情報」が考えられます。構築に先立ち青写真(グランドデザイン)の策定を無くして、成功は望めないと考えます。優先順位の高いものから順番に作ったり、構築しやすそうなものから作ったりした場合、以下の理由からシステム化がうまくいかず、最悪の場合、破たんしてしまうリスクがあると考えられます。
グランドデザインの基本ステップ以下の通りとなります。
グランドデザインでは、事業・組織特性、現状課題とニーズを踏まえ、
をまとめます。グランドデザインは、密室で決めるものではなく、社内の知恵を結集し、方向性を定める必要があります。また、まとめたものを関係者で共有し、コンセンサスを形成することが重要になります。
長期に渡る活動を展開する場合、環境の変化に伴い新たな課題が出てくることが考えられます。そうした場合、「原点」に立ち返る必要も出ます。グランドデザインは、そうした「原点」となる関係者全員の「バイブル」になります。言い方を変えると、グランドデザインを作っても共有化しなければ、単なる書類の束となります。
グランドデザインは、テーマによっては大きなボリュームになります。関係者が隅々まで読み、同じ理解に至ることは期待できません。そのため、関係者とのコミュニケーションも重要になります。「プロジェクトの失敗原因は、コミュニケーション不足」というケースが多くあります。
ビジネスをグローバルに展開する企業にとって、連結経営管理基盤の構築が極めて重要になっている中で、「価値あるサポート」とは何かを考えてきました。その成果を、本コラムの冒頭でも紹介したように、ホームページ、BBS Group News、出版物等で発信してきました。
ただし、これらは文字で描かれた「概念」であり、実際に現場でグランドデザインの検討を開始すると様々な「現実問題」に直面することになります。グランドデザインを策定するためには、先ず3つの壁を克服する必要があると考えます。
この3つの壁を、社内のメンバーだけで乗り越え、グランドデザインを策定することは、難易度が高いと言えます。連結経営管理の領域は、「絶対的な解」も世の中が認める「ベストプラクティス」も存在しません。企業の経営スタイル、事業形態、組織構造等を反映した、その会社としての実現可能(つまり、実現手段付き)な「目指すべき姿」を定義する必要があります。
BBSでは、コンサルタントの役割として、基本的に以下の3つを考えています。
知識はコンサルタントの前提であり、方法論・技法はコンサルタントのツールであるので、わかりやすいと思いますが、問題は「目指すべき姿」です。
「目指すべき姿」は、経営層にヒアリングして意見集約すればまとまるというものではありません。通常の法人内の業務システムでは、「受注~在庫引当~出荷指示~出荷~請求」というように、業務プロセスとデータの関係が明確です。しかし、連結管理の領域は、連結予算、連結資金等のように、グループ各社の計画と本社の計画をどのように連動情報系では、世界各地の拠点で分散管理されている情報をどのように収集し、どのような整合性を確保して、データベースに格納し、活用していくか?ということを定義する必要があります。現在、実現していない業務であり、具体的なイメージを持ちにくい領域で在ります。そのため、実際に現場でお客様と議論してもかみ合わず、なかなか議論が進まないケースもあります。
グランドデザインの検討を効率的に進めるために、BBSでは、第二回で紹介した8つのコンポーネントについて、企業モデルを定義し、コンポーネントごとの業務モデル(業務機能、プロセス)を定義してきました。また、その業務機能に基づき、システムモデルを順次開発を行っています。これにより、ゼロベースで検討をスタートするよりも具体的なイメージをもって業務要件、システム要件を検討できるようになると考えています。
これまで4回に渡り「グループ経営を支える連結経営管理基盤」の構築に向けて考慮すべき基本的な論点について、説明を行ってきました。これらの論点は、「連結経営管理基盤」に限らず、企業の仕組み作りのベースとなる考え方だと思っています。現場でお問い合わせに対応する中で、「何を今後管理すべきか?」の議論ではなく、「どのソフトウェア・ツールを導入すべきか?」の議論に終始してしまうケースがあります。くれぐれも、パッケージソフトやBIツールを導入することが目的にならぬようにしていただきたいと思います。
企業経営に役立つ仕組みの構築が、企業の業務部門およびIT部門の役割であり、その活動を支援させていただくのが我々コンサルタント会社の役割だと考えています。
今後の皆さまの検討の一助となれば幸いです。
倉林 良行