第3回「意思決定に資する情報の条件とは?」

(1)意思決定に必要な情報を企画する

グループ経営に必要な情報というと、優秀なスタッフが「あれも必要、これも必要」とデータの百科事典のように、体系的・網羅的にデータを定義するケースがあります。体力のある会社では、このような経営情報のためのデータベースを構築してしまい、結果として誰も見ないというケースまであります。何故、使われないのでしょうか?答えは簡単で、意思決定する側の論理を十分把握せずに、意思決定者に情報を提供する側の論理でデータを定義してしまうからです。玉手箱のように、何でも出てくる経営情報システムは、幻想だということです。

「いつ、どのような意思決定をするのか?」「その意思決定に必要な情報は何か?」という視点からから、情報を企画し、定義する必要があります。

意思決定に必要な情報を企画する

(2)組織構造、事業特性に見合う情報を選択する

情報を定義する際に留意すべきことは、組織構造、事業特性に見合った情報は何か?ということです。

「組織構造」について考えます。地域本社がない場合には、全子会社から情報を収集して分析を行うことが基本となります。しかし、地域本社がある場合には、本社と地域本社が分担して管理することになります。仕組みとしては、本社・地域本社がともに管理出来るようにデータを体系化し共有する場合と、地域連結した集約情報のみ本社で管理する場合が考えられます。

「事業特性」について考えます。販売動向を見たい場合、通常は迷わず「売上高」と考えますが、「受注額」が重要な業界がたくさんあります。受注生産しているようなケースでは、売上は結果でしかありません。取引条件にもよりますが、受注と納期が決まれば数か月先までの売上は分かります。これは単純な例ですが、このように業界によって重視する情報が変わってくることに留意する必要があります。

(3)使用目的に見合う情報を提供する

情報を定義する際にもうひとつ留意すべきことは、使用目的に見合った情報は何か?ということです。使用目的から考える時に、「通貨」と「コード」に留意する必要があります。月次連結を実施している場合、月々の決算レートは変動します。そのため、現地通貨建ての売上高が全く同じでも、円建ての売上高は変動することになります。また、グループ標準の勘定科目が適用されていないと、分析の都度読み換えが必要になり、迅速な分析が困難な場合もあります。使用目的に合わせ、どの「通貨」「コード」で分析するかの判断が必要になります。

また、情報の「スピード」と「精度」についても留意する必要があります。決算で確定した数値は精度的には問題なくとも、スピードが問題になります。迅速な意思決定には、情報のスピードが重視されます。売上を例にとると、翌月第2週にデータを確定し、分析レポートを作成し、第3週に業績報告している会社が多くあります。その経営層からは、「アクションを取るのが翌々月になる」という不満を良く聞きます。迅速なアクションを取るのであれば、売上の確定値よりも「売上の速報値」の方が、価値があります。タイミングを逃したデータをどれだけ蓄積しても、活用される頻度は低くなります。

(4)意思決定に資する情報

これまで、連結経営管理基盤の青写真(グランドデザイン)の中心的なテーマの1つである「管理する情報」について3つの観点から考えてきました。

  • 意思決定に必要な情報
  • 組織構造、事業特性に見合う情報
  • 使用目的に見合う情報

ここでのポイントは、「データ」と「情報」の違いを意識するということです。単純にいうと、「データは事実を数値化したもの」であり、「情報は意味・価値をもつ」ということです。意味・価値を定義しないで、コンピュータが日々生み出す膨大なデータをかき集めて、データベースに格納することにはあまり意味がないと考えるからです。

経営情報というと、ほとんどの人はBIツール等で描かれた「美しいグラフ」がさらさら出てくる姿を思い浮かべます。近年では、経営者がいつでも、「モバイル環境でiPad等からそれらのグラフが見える姿」が、洗練された経営の具現化と思われるケースも多々見受けます。使用目的を決めずにかき集めたデータを単にグラフ化しただけのものは、視覚的に描写・描画しただけで、本来的には「意思決定では役に立たないデータ」だと考えられます。また、何らかの意図を持ってデータを加工してしまうと、一見価値のある情報に見える(見せられる)ことがあります。これは、報告者の意図で事実と異なることが伝達されることを意味し、「意思決定では役に立たないデータ」だと言えます。

重要なのは、事業構造・組織構造・使用目的に照らして、情報活用上の要件から「意思決定において何が重要な情報」なのかを明確化することだと考えます。