第1回「グループの経営の課題とは?」

1.グローバル化の深化

企業規模の大小に関わらず、海外の販売比率、生産比率が高まっています。実際のオペレーションをみてみると、以下のようなケースがみられます。

  • 国内市場が縮小し、海外売上比率が高まった。
  • 新興国市場が急拡大し、海外売上比率が高まった。
  • 国内市場が成熟化し、新たな成長を新興国に求め、海外展開を図っている。
  • 顧客の現地調達が拡大し、海外売上比率が高まった。
  • 海外製造拠点の現地調達が進み、海外調達比率が高まった。
  • リーマンショック以降、国内の製造拠点を縮小し、海外シフトを行った。
  • 新興国市場に対応するために、現地生産を急拡大した。
  • 取引先の海外生産の拡大に伴い、海外生産比率が高まった。

企業の生産・販売・調達という企業オペレーションそのものが海外にシフトしてきており、それに伴い業務判断や意思決定の内容も変わってきています。こうした変化は、「グローバル化の深化」が進んでいるといえできます。

2.マネジメント要件の変化と経営リスク

(1)「結果のモニタリング」から「都度の意思決定」

世界各地の拠点では、日々オペレーションを行っています。販売・生産・調達等のオペレーションに関わる情報が世界各地で日々発生し、分散管理されているといえます。これまでは、法人単位に閉じたオペレーションを行い、その中で業務上の意思決定を行っていても大きな問題にならないケースが多かったと考えられます。

これまでグループ経営を支えてきたのは連結予算・実績の管理です。グループの経営目標に対し、各社の予算を円換算して連結予算を作ります。また、各社の実績を収集し円換算して月次連結を行い、会社別予実、連結予実をまとめます。翌月半ばに業績会議で報告するというのが一般的な運用と考えられます。つまり、グループ経営とは、各拠点活動の「結果(月次損益)をモニタリング」することでありました。

しかし、事業形態にもよりますが、グローバル化の深化が進んでくると、一般に、拠点では判断しきれない課題が多くなります。言い換えると、本社が状況判断し、全体最適の視点から「都度、意思決定」すべきテーマが多くなります。そのため、月次財務諸表とその予実対比だけでは対応しきれなくなります。マネジメント要件の変化に、情報管理が追いつかない状況が発生します。

(2)マネジメント要件の変化に伴う経営リスク

本社の判断項目が多くなると、これまでとは内容もタイミングも異なる「様々な情報要求」がでてきます。しかし、多くの企業では、「定期的に結果をモニタリング」する仕組みの整備を主に進めてきました。そのため、手元にある情報では状況判断できずに、意思決定の都度、必要な情報をExcel等で収集し報告を行うという自転車操業的な対応が続くことになります。こうした対応を継続すると以下の3つのリスクに直面することになります。

  1. 業務効率の低下と管理部門の肥大化【管理コスト増加のリスク】
    人海戦術で、都度の情報収集でレポートするために、情報を取りまとめる本社だけではなく、情報提供させられる拠点側でも、業務負荷の増大と業務効率の低下が発生します。そして、グループ全体として、管理部門の肥大化による管理コストの増加のリスクが高まります。
  2. タイムリーな実態把握が困難【意思決定が遅れるリスク】
    情報収集はメールが主体になります。情報提供の依頼(指示)を行い、基礎情報をExcel等で集め、集計・分析し、報告を行います。子会社数にもよりますが、依頼してから報告までの「情報リードタイム」が数週間かかるというケースも多くあります。そのため、タイムリーな実態把握が困難で、意思決定が遅れるリスクが高まります。
  3. 不備な情報で意思決定【経営判断を誤るリスク】
    都度の情報収集にたよって報告を行う中では、情報の信頼性の低下がつきまといます。現場では精一杯対応しているつもりでも、意思決定の意図まで理解し、情報を作成できる場合は限られると思われます。そのため、不備な情報で意思決定を行い、経営判断を誤るリスクが高まります。
グローバル化の深化の中で、経営管理が機能不全になっている

3.グループ経営の基本課題

これまで考えてきたように、グローバル化の深化の中でマネジメント要件が変わり、多岐に渡る情報ニーズへの対応が求められています。今まさに、グループ経営に資する情報基盤の整備が求められているといえます。多くの企業で、「経営実態の見える化」「管理の効率化」が、グループ経営の基本課題としてクローズアップされてきているといえます。